韓流時代小説 罠wana*秘された王子と麗 メークアップアーティストとして活動ー長年の夢が叶った | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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一瞬一瞬、1日1日を大切に精一杯生きることを心がけています。
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連載115回 韓流時代小説 罠wana*秘された王子と麗しの姫

君に、出逢えた奇跡。俺は、この愛を貫いてみせる~ 第二部 第一話「十月桜」 

~十月桜が咲く頃、笑顔で家を出ていった夫は二度と妻の許へ戻ってこなかった~
韓流時代小説「裸足の花嫁」第三弾!!

 

今夜も咲き誇る夜桜が漆黒の夜空に浮かび上がる。
桜の背後にひろがる夜のように、一人の男の心に潜む深い闇。果たして、消えた男に何が起こったのか?
「化粧師パク・ジアン」が事件の真相に迫る!
****王妃の放った刺客から妻を守るため、チュソンは央明翁主を連れ、ひそかに都を逃れた。追っ手に負われる苦難の旅を続け、二人が辿り着いたのは別名「藤花村」と呼ばれる南方の鄙びた村であった。
そこで二人はチョ・チュソン、パク・ジアンと名前を変えて新たな日々を営み始めるがー。 

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パク・ジアン(央明翁主)美少年バージョン

  ジアンが男性に戻ったときのイメージ画像です。

 チュソンを送り出してから、ジアンは大急ぎで掃除を済ませ、内職を再開する。掃除といっても、板の間がひと間きりだ。たかが知れている。直に終わり、次に気づいたときにはもう一刻余りが経過していた。
 裁縫はついつい肩が凝るものだし、眼も疲れる。ジアンは拳で肩を軽くトントンと叩き、指先で眉間を押さえた。こうすると、ほんの少し疲れが取れる。これは育ててくれた保母尚宮が教えてくれたことだ。
 今のジアンを見れば、乳母も安心してくれるだろう。男ながら女として生い立つジアンに、女として生きるすべを教え込んでくれたのは他ならぬ保母尚宮であった。
 チュソンを送り出した時間そのものが遅かったことを思えば、そろそろ昼時かもしれない。ジアンは立ち上がった。昼ご飯は町で食べてくるよと、チュソンは言い残していった。
 一人の食事は味気ないものだ。やはり、自分はチュソンの顔を見ながら、何でもない話をさも面白いことのように話し合い、笑って食べる食事が一番愉しい。
 まだチュソンの顔を見ていないのはほんの半日にもならないというのに、早くもチュソンが恋しくなってしまった。そんな自分に苦笑していたときだ。
 表で人の気配がした。もしやと思い勇んで扉を押し開ければ、見憶えのある若い女がひっそりと佇んでいる。
「加南(カナム)」
 ジアンが名を呼べば、小柄な女は小さく笑った。細面のなかなかの美人だが、どこか淋しげな翳りがつきまとう。
「ごめんなさい、忙しい昼時に急に訪ねてきたりして」
 カナムが申し訳なさげに言うのに、ジアンは笑って首を振る。足音に思わずチュソンの帰宅かと思ったのだけれど、冷静に考えれば本屋に行った良人がそんなに早く帰るはずもないのだ。
 チュソンの本好きは、同じく本好きのジアンさえ呆れるほどである。おしなべて倹約家で慎ましい彼だが、こと本が拘わると浪費家になる。珍しい書物を見れば、たとえひと月分の生活費であろうとも、後先考えず即買いしてしまうのだ。
 チュソンは大体、ひと月に二、三度は隣町に出掛けるが、これまでに続けさまに二度、高額な清国渡りの書物を買い込み、ジアンを唸らせた。ジアン自身も清国渡りの難しい漢籍を読みこなすほどだから、書物や知識欲に対する理解はある方だと思っている。けれども、チュソンの書籍に対する情熱は、ジアンの想像の上をいくのだった。
 その時、ジアンはよほどチュソンに少しは家計も考えてと喉許まで出かかっていた。が、珍しい玩具を手に入れた子どものようにはしゃいでいる良人を目の当たりにすると、もう何も言えなかった。
 流石にチュソンも大枚を叩(はた)きすぎた自覚があるのか、以降は本屋に行っても、ごく平均的な値のものをたまに一、二冊買ってくるだけになった。ジアンもできれば水を差すようなことを言いたくはないので、助かっている。
 なので、大抵、チュソンは書店で立ちんぼを決め込む。もちろん、ただ突っ立っているのではなく、立ち読みをするのだ。ただ、チュソンは一度書物に没頭すると、下手をすれば数時間でも現実に戻らない。それでも特に文句を言われたとは聞かないから、書店の主人はかなり寛容な人なのだろう。
「気にしないで」
 ジアンは微笑んだ。カナムがどこかホッとしたように言う。
「今、お化粧をお願いできる?」
 慌てて付け足すのも忘れない。
「あ、忙しいなら、また出直すけど」
 ジアンは笑った。
「大丈夫よ。良人も今、隣町まで出掛けているから、私一人だし」
 そうなのだ、ジアンは仕立屋としての顔の他にも、もう一つの顔を持っている。化粧師(けわいし)である。
 こうして客からジアンを訪ねてくることもあれば、頼まれて道具一式を持参し依頼者の許に出張することもあった。
 化粧師としてのジアンの仕事ぶりも軌道に乗っている。元々は村長の遠縁の娘の祝言に呼ばれ、化粧をしたのが始まりだった。花嫁の化粧を担当する適当な人材がいないと聞いて、ジアンが名乗り出たのだ。
 村長からは破格的に安い店賃で家を貸して貰っている。殆ど無償同然なのだ。普段、世話になっているお礼が少しでもできればと申し出たことが、ジアンの長年の夢を叶えるきっかけになるとは本人も考えだにしなかった。
 遠縁の娘は、あまり器量が良いとはいえなかった。ところが、ジアンの腕にかかれば、並より明らかに下の娘の顔が幸せに溢れ輝く美しい花嫁に変わったのである! たちまちにして化粧師パク・ジアンの名は狭い村中に轟き渡った。
 更には、これまた隣町にまで広がり、最近ではごく稀にではあるが、富裕な商人の奥方からも声がかかるようになっている。特に祝言や宴の席に連なるわけではなくとも、ジアンを呼んで化粧を頼む有閑夫人もいるわけだ。
 いや、富裕階級の夫人たちだけではない。カナムのようにタナン村に暮らす女たちでさえ、少しでも懐にゆとりがあればジアンに化粧をして貰いたがった。そのため、ジアンは村の女たちには、内緒で町の奥方たちよりは格段に安い施術料金で引き受けていた。
 女性にとって化粧(メーク)術は、生まれ変わるための手段でもある。生まれ変わるとはいささか大袈裟かもしれないが、日々、良人や子、家族のために身を粉にして働く女たちは、その実、自分のことはなりふり構わず、気がつけば、身綺麗にするのもなおざりにしていることが多い。