韓流時代小説 罠wana*魅入られて~日陰の王女は愛に惑う~その美しき微笑は甘美な罠か?出会い編 | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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韓流時代小説 罠wana*魅入られて~日陰の王女は愛に惑う

作品説明

ーその美しき微笑は甘美な罠か?

どこから見ても美少女のジアンには、秘密があったー。
「すべてのものから、僕が貴女を守る」
「あなたと出会わなければ良かった。あなたを傷つけたくないから、身を引こうとしたのに」

 

附馬とは国王の娘を妻に迎えた男性を指す。

いわゆる王の娘婿である。難関とされる科挙に

最年少で首席合格を果たしたナ・チュソン。

将来を期待されながらも、ひとめ惚れした美しき王女の降嫁をひたすら希う。

約束された出世も何もかも捨てて、王の娘を妻として迎えたにも拘わらず、夫婦関係はよそよそしかった。

妻への報われぬ恋に身を灼く一人の青年の愛と苦悩を描く。ー彼女はその時、言った。
 「私と結婚したら、後悔しますよ」。果たして、その言葉の意味するところは? 官吏としての出世も何もかもをなげうって王女の降嫁を望んだ一人の青年。しかし、妻となった王女は、良人に触れられることさえ拒んだ。ー
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 更に言えば、チュソンは〝男乳母〟みたいな口煩い乳兄弟からもこうやって用意周到に策を練って逃れるのもほぼ毎度のことだ。
 毎回、口実が違うので、チョンドクはついついチュソンに騙されてしまうのは情けなくも腹立たしいことだ。
 チョンドクは諦め気味の溜息をついた。この分ではどうせ町中を探し回ったとしても、若君は見つかるまい。これも毎度のようにチョンドクは先にお屋敷まで戻っているのが賢明だ。
 むろん、馬鹿正直に屋敷に戻るのではない。そんなことをしようものなら、更に母親から雷を落とされるのは判っている。屋敷付近で時間を潰して待っていれば、チュソンは必ずや現れる。
ーやあ、チョンドク、待たせたか?
 少しも悪びれもせずにやってきて、人懐っこい笑顔を浮かべる。チョンドクはつい、その邪気のない笑みに負けて許してしまうのだ。そんなことの繰り返しである。
 そして現れた若さまとチョンドクは二人して〝一緒に戻ってきたように〟お屋敷に戻り、チュソンの乳母であるチョンドクの母、次いで奥さまーチュソンの母から、こってりと油を絞られる。
 それでも、途中でかなりの時間、若さまを一人にしていると母や奥さまに知られるよりは、まだしもずっと一緒に行動していたと思われる方がマシだ。
 チョンドクはまた大きな息を吐き、二つの林檎を握りしめ屋敷へとゆっくりと歩き始めた。

 チョンドクが屋敷へ戻ろうとしていた同じその頃、チュソンはまんまと乳兄弟を撒くことに成功し、ほくそ笑みながら歩いていた。
 チュソンの足取りは軽かった。
ー本当にチョンドクのあの口煩さはヨニそっくりだな。
 ヨニというのはチュソンの乳母である。チュソンは実の母よりもヨニに懐いていた。もちろん、綺麗で優しい母も好きだけれど、母は庭を走り回って泥だらけのチュソンを見ると、美しい眉をひそめ、近寄ろうともしない。
ー母上、庭でトカゲを捕まえました!
 チュソンが勇んで近寄ろうとすると、あたかも薄汚いものでもあるかのように手を振った。
ー近づくでない。
 チュソンは母にトカゲを見せられなくて、ひどく落胆した。そんな時、ヨニはチュソンを抱きしめ優しく言うのだ。
ー奥さまはトカゲがお嫌いなんですから、あんなことなさってはいけませんよ。
 だから、今度は蝉の抜け殻を集めて母にあげようとしたのだ。綺麗な寄せ木細工の箱に抜け殻をたくさん入れて母に渡した。
ーチュソンは優しい子ね。
 嬉しげに箱を受け取り、開けた母は金切り声を上げ、その場で失神した。
 チュソンは愕き、母が衝撃のあまり死んだのではないかと大泣きした。むろん母は死んだのではなく、拒絶反応を起こしただけだ。
 トカゲが嫌いな女人は珍しくはなかろうが、蝉の抜け殻に愕いて気を失う人は滅多とおるまい。
 以来、チュソンは母に贈り物をするのは止めた。ヨニには寄せ木細工の箱ではなく、ただの紙箱に同じように抜け殻を詰めて上げたら、とても歓んでくれた。
 どちらもチュソンは庭で苦労して集めたものだった。
ー若さまのお優しい心、ヨニは嬉しいですよ。
 チュソンはまたしても乳母の腕の中で泣いた。どうやらチュソンと母の価値観は対極にあり、母はどうしたってチュソンの趣味を理解できないようだと悟った日になった。
ーあの子はやることが野蛮すぎますわ。
 母が父にぼやいているのも聞いてしまった。
ー悪戯盛りの男の子は皆、あんなものだ。むしろ頭ばかりが良くて室に閉じこもっている軟弱者より、よほど元気が良くて楽しみではないか。
 父は母の繰り言に耳を貸そうとせず、それがせめてもの救いではあった。
 チュソンは母と少しずつ距離を置き始め、裏腹に息子が離れていったと知るや、母は途端にチュソンに対してより一層の干渉を始めた。チュソンはそんな母の干渉が嫌で仕方ない。
 チュソンは手にした二つの林檎を空高く放り投げた。チョンドクに言われるまでもない。チュソンとて銭の使い方くらいは心得ている。学問ばかりしかしない頭でっかちの世間知らずではないのだ。
 チョンドクはよもやチュソンが銭を隠し持っているとは考えてもいないだろう。気の毒なチョンドクをまんまと出し抜くことに成功した後、別の八百屋で買ったものである。
 一つは自分の分、もう一つはむろんチョンドクの分だ。後で彼にあげよう。
 ヨニがもう一人の母なら、チョンドクはチュソンには兄貴分に等しい。立場は主従ではあるが、彼には家族同然の二人だ。
 屋敷で澄まして食べるのでなく、往来を闊歩しながら食べる林檎の味は最高だろう。母が見ようものなら、
ー行儀が悪い。
 と、たちまち美しい眉をひそめそうだ。
 チュソンが林檎を頬張ろうとしたその時、背後で怒号が響き渡った。
 ただならない様子に、チュソンは意識せず振り返る。六つくらいの女の子が林檎を数個抱えて走ってくる。
 ボウと突っ立ったままでは、チュソンに体当たりしそうだ。チュソンは急ぎ避けようとしたが、時既に遅かった。チュソンと女の子は正面衝突し、女の子は道端に派手に転がった。ついでに色鮮やかな林檎もころころと転がっている。