韓流時代小説 寵愛【承恩】~王女の結婚~初めてジュンスと話せた!王女の胸は時めいてー恋の始まり | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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韓流時代小説 寵愛【承恩】第三部

~向日葵の姫君ーThe Princess In Loveー(原題「王女の結婚」)

ヒロイン交代!第三部はホンスン王女が主役を務めます。

韓流時代小説「王宮の陰謀」第三部。

わずか16歳で亡くなったとされる(英宗と貞彗王后との間の第一子)紅順公主には秘密があった?

幼なじみの二人が幾多の障害を乗り越え、淡い初恋を育て実らせるまでの物語。

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 仁賢は紅順にいつも優しいにも拘わらず、時折、ふと気づく彼の眼差しの烈しさ、強さに気圧されてしまう。いつもではないが、仁賢は紅順をまるで視線で絡め取ろうとでもするかのように、強い光を湛えた眼で見つめていることがあるのだ。
 つい先刻、約束だといって指を絡めたときも気づけば、彼はあの怖いような真っすぐすぎるまなざしを紅順に向けていた。仁賢の黒瞳はまるで真っ暗な闇を閉じ込めたようで、あまりにも強い眼で見つめられると紅順は身体ごと奈落の闇に引きずり込まれてしまいそうで、怖くなる。
 紅順は小さくかぶりを振る。
ーううん、考え過ぎよ。お兄さまは、いつもこんなにも優しいんだもの。
 一瞬浮かんだ不安を、紅順は笑い飛ばした。
 いつも紅順を見れば不機嫌を隠そうともしない俊秀ならともかく、真の兄のように優しい仁賢を怖いと思うだなんて、どうかしている。
 紅順が小さな吐息をついたその時。ピィーっと、鋭い音がしじまを破り、紅順は飛び上がった。
「な、何なの?」
 耳を澄ませると、更にまたピィーと澄んだ音が聞こえた。何の音なのか、気になって仕方がない。彼女は立ち上がり、廊下に面した両開きの戸をそっと押した。
 また空気を震わせ、涼やかな音色が聞こえてくる。間違いない、音は庭から聞こえてくるのだ。
 廊下は建物の周囲を取り囲む回廊になっている。紅順は回廊を音に導かれるようにして進み始めた。歩くほどに笛の音が近づいてくるようだ。
 いつしか紅順は見知らぬ場所に来ていた。邸内でも最奥部に当たるらしい。吹き抜けだった回廊が別棟の建物の内部へ延びている。少し様子を窺えば、その建物はしんとして人気はまるで感じられない。廊下沿いに室が並んでいるようだけれど、普段は使っていないのだろうか。
 少々怖くもあり、その建物に足を踏み入れることはせず、吹き抜けの回廊に佇んだ。廊下越しに庭がひろがっている。
 奥庭なのか、さして広くはないけれど、片隅に淡い緑に染まった可愛い実がついた蔓が伸びているのが見える。蔓は屋敷をぐるりと囲む築地塀に身を寄り添わせるように伸びていた。
 紅順は眼を輝かせた。初めて見る珍しい風景に、心が高鳴る。あの風船の形をした薄緑の実に触れたら、どんな感じなのだろう。
 彼女は、そっと周囲を窺った。大丈夫、誰も居ない。紅順は王妃が見れば卒倒するに違いない行動に出た。靴がないので足袋(ポソン)のままで庭に降り立ったのだ。
 誰が見ているわけでもないのに、つい抜き足忍び足になりながら、そうっと風船のような可愛い実に近づく。とうとう塀の手前まで来て、手を伸ばした。
 だが、たとえ庭の植物とはいえ、ここは陳氏の邸内である。無闇に実を摘んで良いものではないだろう。伸ばしかけた手を引っ込めようとしたその瞬間、またしばらく途絶えていたピィーという音が響き渡った。
 思わずギクリとして飛び上がる。
 と、ガサリと緑の茂みが揺れて、一人の子どもが姿を現した。最初は使用人の子かと思いきや、あろうことか現れたのは俊秀だった。
 彼は右手に何か小さなものを持っている。
「ーっ」
 俊秀はこんな場所で紅順と出くわすとは、考えてもいなかったようである。いつもの無表情は変わらないが、心なしか彼の耳朶が紅く染まっているようだ。
 彼は毎度のことで、紅順を見るや背を向けて逃げ去ろうとした。
「待って」
 紅順の叫びに、俊秀が足を止めた。硬直したように動かない背中を見て、哀しくなる。やはり、俊秀は紅順を嫌いなのだ。だから、いつもこんな風に口さえまともにきいてくれないのだろう。
「あのね、俊秀」
 呼び止めたは良いが、その先が続かない。紅順は必死になった。彼と二人きりで話ができる機会など、この先そうそうあるとは思えない。この機会を逃したら、俊秀とは永遠に解り合えないままだろう。
 深くも考えずに出た科白は、彼女の心にあるがままの想いだった。
「私、あなたに何かした?」
「ー」
 ジュンスは相変わらず、微動だにしない。足を止めたそのままの姿勢で、振り向かずに前を見つめていた。
「ジュンスに嫌われているのは判っているけどー。もう少し私たち、仲良くなれないかしら」
 ジュンスが必要以上に紅順に頑なな態度を取ることを、もちろん乳母は気づいていた。知っているからこそ、哀しんでいたし悩みもしていた。乳母は実の母以上に母とも慕う大切なひとだ。紅順は乳母が哀しむのを見たくはない。
 それでも、ジュンスは口を開こうとしなかった。気まずい沈黙が張り詰めそうな危うさに変わろうとする頃、紅順はやはりジュンスは話してはくれないのだと諦めた。
 そんな矢先、ジュンスがしじまを破った。
「俺、別にお前が嫌いじゃない」
 王女相手に随分と無礼な物言いではあるが、そこは乳兄弟であるし、子ども同士だ。紅順は何より、ジュンスが初めてまともに話してくれたのが嬉しかった。
「そうなの? 私はいつもあなたが私を見て怒ったような顔をしているから、てっきりー」
 ジュンスが拗ねたように言った。
「どうせ俺は兄上(ヒヨンニム)みたいに愛想良しじゃないし、出来も良くないから」
 そのまま駆け出そうとする背中に、紅順は急いで続けた。
「さっきね、笛の音を聞いたような気がしたの。お兄さまの部屋にいたら、どこかから聞こえてきて。笛の音に誘われるように廊下を歩いてきたら、ここにいたというわけ」
 とうとう、ジュンスが振り向いた。彼はつかつかと近寄ってきたかと思うと、無造作に手のひらを突き出した。
「これ」
 紅順が首を傾げると、ジュンスは言葉少なに繰り返した。
「これだろ」
 手のひらには呼び子のようなものが載っている。ジュンスが作ったものか、多少形がいびつではあった。
 彼は呼び子を口にくわえた。ピィー、先ほど紅順が耳にしたまさにその音が聞こえる。
「凄いわ」
 思わず感嘆の声を洩らせば、何故か眼の前の同い年の少年は紅順を眩しいものでも見るかのように見つめた。
「これって、ジュンスが作ったの?」
「ああ」
 彼が頷く。口調はぶっきらぼうではあるが、怒ってはいないようだ。彼は少し思案げに眉を寄せ、袖から小さな紙切れを出した。
「これを使って、まず呼び子を作る」
 紙は少し固めで厚さがある。彼の説明に従って、紅順は教えられたとおりに紙を折った。しかし、上手くできず、見かねたジュンスが途中から代わりにやってくれた。
「それから」
 彼は背後を振り返り、築地塀に伸びた蔓から一つだけ茶色の実をもいだ。紅順が先刻見た実は綺麗な緑だったが、緑の実に混じって茶色の実も結構ある。
 みずみずしい薄緑の実と異なり、茶色の方は少し皺が寄り、萎んでいるようだ。
 興味津々で眺める紅順の前で、ジュンスは風船に似た実を開き、種を取り出す。種は三つ入っており、全体的に黒っぽい。黒字に白い模様が入っていて、その模様が何とも面白い形をしている。
 ジュンスは小さな種の一つを作ったばかりの呼び子に入れた。呼び子を口に当て、指で両脇を押さえながら、頬を膨らませて息を吐き出す。
 ピィー。また、あの澄んだ高い音が響き渡った。
「凄い」
 紅順が興奮して手を叩くと、ジュンスは照れたように頬を紅くした。
「お前もやってみろ」
 紅順の方に呼び子を差し出す。