韓流時代小説 炎の王妃~月明かりに~あの男の心を得るために-オクチョン、淑嬪が粛宗を巡り動き出す | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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小説 炎の王妃~月明かりに染まる蝶~

    第四話  天空の蝶

ついに、念願の王妃となったオクチョン。

 王妃冊封の儀式では、国母・中殿となった歓びを噛みしめる。
 やっと、これで大好きな男の〝たった一人の女〟になり得たのだ。
 だが、オクチョンの心はそれで満足することはなかった。
 -スン(粛宗)に近付く女は誰であろうと、許さない!
 嫉妬のあまり、次第に我を忘れてゆくオクチョン。
 ついには、スンが好意を示した若い女官に堕胎薬を飲ませる。
 そんなある日、粛宗が廃妃(前妻)にまだ心を残していると知り-。

 

-どうして、私だけでは駄目なの? スン、お願いだから、私だけを見て。他の女の人に微笑みかけないで。
 オクチョンがこよなく愛した花、紅吊舟がかすかに揺れる。
-あの真っ赤な花のように、炎のごとく生きたい。一瞬で燃え上がり、潔く散ってゆきたいの。
 果たして、オクチョンの激しくも哀しい粛宗への愛が辿り着いた場所とは、
 粛宗が長い年月の果てに気づいた、自身の心の真実、ただ一人の大切な存在とは。

-長い間、苦しませ、哀しませた。俺が悪かった、今からでも遅くない、二人だけでやり直そう。
 オクチョンの元に駆け付ける粛宗だったが-。

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 蝶はしばらくオクチョンの回りを飛び回り、やがてまた細く開けた窓から出ていった。幾ら外を覗いても、頭上にはただ煌々と月が輝いているだけだ。
 刹那、血の色のように赤く染まった月の周囲を飛び回る蝶をオクチョンは確かに見た。
 先刻は深い水底(みなそこ)のように蒼く染まっていた蝶は今や不吉な血の色を帯びている。
 血の色といえば、どうしてもオクチョンはあの悪夢―就善堂に入ろうとして血の雨を浴びる夢を思い出してしまう。
 果たして、あの血はオクチョン自身のものか、王妃のものなのか。オクチョンは迷いを断ち切るかのように首を振った。
 駄目だ、こんな弱気ではいけない。
 手ぬるいことはしない、手加減は一切無用、今度こそ、王妃の息の根を止めるのだ。
 そして、私のスンをこの手に取り戻す。
 オクチョンが物想いに耽っている間に、気が付けば蝶は幻のように消えていた。相変わらず血の色を宿した月だけが蒼白く人気のない色町の裏道を照らしているだけだった。
   
 一方、妓房を出たウォルメは溜息をついた。
  たった今、自分が会ってきたばかりの人物の面影を瞼に甦らせる。禧嬪張氏、憐れな女だ。そこまで他人を憎まねばならないとは。
 齢四十を超えてもなお、ウォルメが初めて見たときの派手やかな美貌はいささかも衰えてはいない。禧嬪の一人息子は今も世子の地位にあり、降格されたとはいえ、彼女は次の王の生母なのだ。
 余計な欲をかかず、嫉妬などに我を忘れなければ、次代の王の母として栄耀栄華を極められるのに。
 今回、何故、禧嬪が動いたのかその理由をウォルメは知っている。禧嬪が掌中の玉と愛でる息子、世子の嫁取り問題が浮上したからだ。
 世子の妃、世子嬪候補は幾人か名が挙がっていて、その有力な候補に王妃の姪が含まれているのだ。大人しい世子は、才気煥発な美少女であるその娘をかなり気に入っている。自身が学問好きで無口なため、かえって打てば響く朗らかな娘に惹かれるのだろう。
 大切な息子の嫁に王妃の姪など、とんでもない。また政治的な意味でも、西人の息の掛かった娘を世子に近づけるのは南人は何としてでも阻止したいところだ。禧嬪は何とか世子を説得して南人の有力者の娘を世子嬪に冊立しようとしているが、こればかりはさしものの禧嬪もどうしようもない。成長した息子は、既に母の言うなりになる幼児ではないのだ。
 自分が可愛がっている姪が養子でもある世子に嫁ぐのを王妃は心から望んでいる。そのことが禧嬪の王妃憎しの心に火を付けたのだ。この七年というもの、禧嬪の心には常に王妃への嫉妬がくすぶっていた。
 ウォルメは七年の間、禧嬪に頼まれた祈祷など内実は一切行っていない。かつてファヨンにも語ったように、禧嬪の王妃への途方もない憎しみこそが両刃の刃となり、禧嬪を傷つける。つまり、禧嬪は王妃に向かって刃を振り上げたは良いが、返り討ちに遭うのだ。
 最早、ウォルメが手を下すまでもなく、禧嬪の命運は遠からず尽きるだろう。この七年もの間、降り積もった王妃への憎しみは、明らかに禧嬪自身の生命を削り取っていっている。なのに、この上、あの女は死に急ごうというのか。
 更にウォルメが祈祷を行えば、まだわずかに残った余命すら、あの女は失うことになるというのに。
 ウォルメは周囲に人影がないのを注意深く確認し、外套を目深に被った。
 早速、このことをファヨンに知らせなければ。今やあの小娘も正一品の嬪だ。しかも、第二王子の生母であり、西人の重鎮ク・ソッキという後ろ盾を持ち、後宮でも侮れない勢力を持っている。
 何の後ろ盾もなく、とうに王の寵愛を失った禧嬪につくより、あの小娘につく方がよほど利口というものだろう。
 ウォルメは首を傾げた。
 それにしても、人の運命とは判らないものだ。刃をつきつけられた時、ウォルメはあの小娘がよもや嬪となり、更に王子の生母となるまでは考えもしなかった。
 天に守護されている王妃のゆく末まで視えるというのに、何故か、あの崔ファヨンの未来だけはウォルメには読めない。読もうとしても、濃い霧のようなものに阻まれて見えないのだ。
 もしかしたら、チャン・オクチョンよりも、王妃よりも、あの小娘の方がよほど何かに守られているのかもしれない。
―これは面白くなりそうだ。
 ウォルメはクックッと嗤った。あの小娘がもし、嬪などで終わる運命ではなかったとしたら?
 あの小娘に与しておけば、思わぬ恩恵に預るときがくるだろう。計算高い占い師は狡猾そうな笑みを浮かべ、歩いていく。やがて、彼女は気配も残さず夜陰にその姿を消した。

 その翌朝、大殿で執務中の粛宗を淑嬪が訪ねた。この淑嬪崔氏こそ、崔ファヨンである。
第二王子の生母であるとはいえ、粛宗のこの妃への関心は極めて薄い。平素から淑嬪が大殿の寝所に上がることもなく、粛宗が彼女の方を訪ねることもない。
 一刻後、執務室を出た淑嬪の美しい面には満足げな微笑が浮かんでいた。後に残された粛宗は淑嬪とは対照的で、その精悍な顔には濃い翳りが落ちていた。
―もし私のお話をあくまでもお信じになれないのであれば、殿下ご自身でお確かめになればよろしいではありませんか。きっと私が偽りを申したのではないことをご理解頂けると存じます。
 ファヨンの言葉を心で繰り返し、粛宗は深い息を吐き出した。
―あの者は信用できぬ。
 たった二度の交わりでファヨンが彼の子を身籠もったのは、彼自身にも予想外の展開であった。思いもかけず彼の子の母となったファヨンを粛宗は嬪にまでしてやり、表面上は王子の母として遇している。
 しかし、ファヨンには何の情もないことは昔と変わらなかった。長い年月が経ち、ファヨンもまた粛宗への関心を失ったかのように淡々としている。
 二人は子をなしながら、夫婦として感情を通わせるどころか他人同然の間柄だ。
 よもや粛宗は考えてもいなかった。ファヨンが今も彼に恋心を―振り向いて貰えないからこそ、憎しみにも近い烈しい恋情を抱いていることを。
 男の心を得るために恋敵を消そうとするのは、何もオクチョンだけではない。ファヨンもまた意のままにならぬ男への復讐として、粛宗の一番大切な女を消すためには生命すら賭けるだろう。

 虫のすだく音が周囲から潮騒のように押し寄せてくる。オクチョンは腕の中の薄い紙切れをひしと握りしめた。まるで、最後にこれしか頼るべきものがない命綱のように掴み、握りしめた手に力を込める。現実として、もう、これに賭けるしかないのも実情ではあった。
 オクチョンの耳奥で申尚宮から聞いたウォルメの科白がありありと甦った。
―この五枚の呪符を中宮殿の床下に置くようにとのことでした。
 札は全部で五枚、その中の三枚は必ず王妃の寝間の真下に置くようにとは、ウォルメの指示である。
 しかも、ウォルメはこうも言ったというのだ。
―中殿さまのご寝所の下には他の者ではなく、禧嬪さまご自身の手で呪符を置いて戴かなければなりません。他の者の手を借りれば、呪いの効力は失われ、祈祷は失敗に終わるでしょう。
 極めて危険な賭けであった。ミニョンはオクチョン自らが手を下すのを最後まで反対した。だが、申尚宮が
―さりとて、祈祷が失敗致せば、禧嬪さまに災厄が降りかかるも必定。ここは祈祷が上手くゆくことを願い、禧嬪さまおん自らに動いて戴くしかなかろう。
 と、言ったのだ。それはまた道理でもあった。動かねば失敗は見えている。ならば、まだしも一縷の望みを抱いて動いた方が賢明というものではないか。
 そのときのオクチョンはまさかウォルメがファヨンと繋がっているとは想像だにしていなかった。ウォルメは最初から呪詛の祈祷などせず、ただのそれらしく見せかけた紙切れを申尚宮に渡したにすぎなかった。
 また、オクチョン自身に手を下させたのも粛宗に現場を目撃させるためだったのだ。
 女官のお仕着せを纏い、身をやつしたオクチョンはミニョンと共に中宮殿の床下に忍び込んだ。まずはミニョンが二枚の呪符を適当な場所に置き、今度はオクチョンの出番である。
 ミニョンの手引きで王妃の寝所と思しき室の床下に辿り着き、オクチョンは何とか三枚の呪符を床下に置いた。見つかってはならないので、土を手で少し掘り返し、呪符を入れて土をかける。


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