完結!小説 夢見桜~ゆめみざくら~抱いて下さい。声を取り戻した私は自らの意思で殿様に想いを伝えた | FLOWERS~ めぐみの夢恋語り~・ブログで小説やってます☆

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小説 夢見桜~ゆめみざくら~

 尼僧志願の少女、お吟がある日、寺の桜の木の下で出会った若き武士は一馬と名乗った。

次第に接近してゆく二人であったが、お吟が剃髪して尼となる日は近付く。
そんなある日、お吟はその国を治める殿様から側妾になるように命じられた。
―顔も知らない殿様が何故?
夜陰に紛れて寺を逃げ出したお吟の前に何故か一馬が現れ―。

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 少女お吟は貧しい農家に生まれ育った。さる飢饉の年、女衒に売られ遊女屋に売り飛ばされるはずだったところ、村の尼寺の住職光円(こうえん)に弟子入りし、尼寺で将来は尼僧になるための修行をしながら暮らすことになった。

 寺の片隅にある夢見桜には、不思議な言い伝えがあった。
 それは、その桜の下で見た夢は、その夢を見た者の未来を暗示するというものだった。

 ある日、吟は夢見桜の下でうたた寝をする最中、不思議な夢を見る。それは得体の知れぬ大きな魔物に追いかけられ、飲み込まれようとする夢であった。
 その夢からめざめた直後、彼女は一馬(かずま)という一人の若い武士とめぐり逢うが。。。

 それ以来、寺をしばしば訪ねてくるようになった一馬に吟は実の兄に対するような信頼と慕わしさを抱くようになり―。

 果たして、謎の男一馬の正体は?
 そして、夢見桜は吟に一体、何を告げようとしていたのか。
 

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 その翌日、一馬は吟を連れて城を出た。愛馬に跨り、吟を前に乗せて目指したのは、一年前、やはり吟を連れて馬で駆けたあの道、山から城下へと続く峠道であった。
 今、折しも桜の季節を迎え、見覚えのある竹林に混じり、薄紅色に包まれた樹々が見える。一馬はその中の一本の桜を指さした。
「お吟、あの桜は、そなたがいた寺の庭に似ておらぬか。確か、夢見桜と申すのであった。ほら、根許にそちの好きな花も咲いておる」
 一馬は吟の身体をそっと抱きかかえ、壊れ物を扱うように静かに降ろした。地面に降り立った吟の足許に紫の可憐な花、都忘れがひっそりと咲いている。
「先日、一人で石を捜しに参りし折、この場所を見つけたのだ。そなたを帰してやるなら、ここかしかないと思うてな」
 吟は相変わらず、感情をどこかへ置き忘れたかのように虚ろな表情で突っ立っている。
「お吟、最早、俺にしてやれるのは、これくらいしかない。そなたは、ここよりいずこへなりとも好きなところ行くが良い」
 吟は、しばらく虚ろな眼差しを周囲に向けていた。
「村へ帰るのも良い、光円のいる寺へ戻るのも良い。もう何もそなたを束縛するものはないのだ。そなたが望むなら、寺まで送り届けよう」
 と、回りを見ていた吟の視線がピタリと一点で止まった。その先には、吟が育った尼寺の桜―夢見桜によく似た桜の樹があった。
「夢見―桜」
 吟の唇から短い言葉が紡ぎ出されたその瞬間、一馬はそれこそを夢を見ている心地だった。
「お吟ッ」
 一馬の呼びかけに、吟が振り向いた。今、長らく氷に閉ざされた心がゆっくりと溶け始めていた。吟の心を哀しみという氷に閉じ込めたのも一馬であったが、また、その凍てついた心を温かく春の陽差しのように包み込んで解き放ったのも一馬であった。一馬の辛抱強い献身的な愛情が漸く、吟を絶望という底なし沼から明るい場所へと救い出したのだ。
 夢見桜の見せた一瞬の夢の中で、吟は黒い影に追われていた。影の正体が一馬であったというならば、あの怖ろしい夢から吟の名を呼び、目ざめさせたのもまた一馬であった。一馬は吟にとって、絶望だけでなく再生をももたらす存在であると、あの桜は夢で告げていたのかもしれない。
 吟は確かに覚えていた。まるで夢を見ているかのように頼りない日々を過ごしていた間、ずっと一馬が側にいて支え続け、見守っていてくれたことを。山に連れてきては、様々な景色を見せ、自然に触れる機会を作り語りかけてきてくれた。
 あの時、まるでゆらゆらと水底を漂っているようなおぼつかない感覚の中で、吟は生きていた。いや、時折、本当に生きているのだろうかと自分ですら疑わしくなるほど、まるで生きているという実感がなかった。それほど頼りない日々の中、一馬の存在だけが吟を現(うつつ)に繋ぎ止めてくれる確かなものであったような気がする。
 一馬の存在と仏をつくり続けることがなければ、吟は真に狂っていたに相違ない。長い間、自分を縛(いまし)めていた鎖から解き放たれた今、吟は恐る恐る口を動かした。
「一馬さま」
 それは、まるで言葉を覚え始めたばかりの幼子が喋るような、たどたどしいものではあったけれど、吟にもそして一馬にも何より確かな響きを持っているように思えた。
「一馬さま」
 吟はもう一度、一馬の名を呼んだ。今度は噛みしめるように、ゆっくりと。
「お吟、今一度、俺の名を呼んでくれ」
「一馬―さま」
 吟が繰り返すと、一馬の眼から一筋の涙が流れ落ちた。
 吟は改めて桜の樹を見つめる。本当に葉の茂り方、枝の張り具合、何から何まであの寺の夢見桜に似ていた。
 光円は今も元気で暮らしているだろうか。 吟の瞼にかつての師匠の慈愛に満ちた微笑が浮かび、消えていった。
 だが、吟の帰る場所は、もうあそこにはない。何故なら、吟はこの男の、一馬の側で生きてゆくと決めたのだから。
「私を一馬さまのお側に置いて頂けますか」
 吟の口から出た言葉を、一馬は信じられないことでも聞いたような表情で聞いた。
「俺を許してくれるというのか、お吟」
 吟はゆっくりと頷いた。確かに力でお吟を欲しいままにする一馬を憎んだこともあった。けれど。声を失い、身体だけでなく心まで傷ついて出口の見えない暗闇をさまよっている時、いつも一馬が側にいてくれた。一馬が途中で見放したりせずに手を差し伸べ続けてくれたからこそ、こうして声を取り戻し、陽の当たる場所に戻ってくることができた。
 一度は兄とも慕ったひとであった。
 憎めるはずがない。
 吟は泣きながら一馬の胸に飛び込んだ。
 今度は兄としてではなく、恋しい男として、その逞しい胸にすっぽりといだかれた。
 春の風がやわらかに吹く。その度に桜の花びらがはらはらと散り、抱き合う二人の髪に肩に積もった。
 二人はどちらからともなく唇を重ねる。初めはついばむような軽い口づけがやがて深くなってゆく。
 待ち望んだ口づけは、狂おしく甘かった。
                 (了)

 

 

 

 

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