間が空きましたが、、、。
これで最後です。
もはや、個人的な備忘録的な、、、。


【すれ違い】
N君とのリハーサルは、僕にとっても刺激的だった。
吹奏楽部の方は、来年の定期演奏会に向けての練習が始まっていた。
僕は2年生になる。
どんどんメイン打楽器を担当する事が増えた。
練習にも熱が入った。
着実に、自信がついた。

そんなある日、O君から電話が来た。
家に来て欲しいとの事だった。
僕は部活が終わった後に、O君の家にいった。

O君はいつもの様にギターを触っていた。
「来週、バンドのリハーサルやるから。予約しといてな。」
「おう。分かったよ。」
(それだけだったら、電話で言えばいいのに。)
するとO君は、煙草に火を付けて。
「この前、Nとリハーサルやったんだってな。DICEやったんだろ?」
「うん、やったけど?N君から聞いたの?」
「まぁな。なんで俺達を呼んでくれなかったんだよ。まぁ、別にいいんだけどさ。」
確かにそうだ。でも、あの時。僕はN君とリハーサルをしたかった。
力試しがしたかったんだと思う。

O君は、この頃から寂しそうな表情をする事が増えた。
僕はそれに気がつかなかった。いや。気がついていたけど、気に留めなかった。

それからバンドリハーサルの日がやってきた。
K君は来れないとの事で、いつものメンバーで集まった。
そして、K君は二度と僕達の前に現れなかった。
理由は分からない。何かO君との間に問題があったのか。
今となっては謎のままだ。
まだグチャグチャながら、演奏出来る曲が増えてきた。
僕はライブが出来るんじゃないかと、密かに思い始めた。

少し休憩をする事になった。
Y君が切り出した。
「なぁ、そろそろライブやらないか?一度やってみても良いんじゃない?」
僕もN君も賛同した。
しかしO君は浮かない顔をしていた。
「まだ、ダメだろ、俺達は、、、。」

そう言うと、O君は練習再開すると言い出し、ギターをかき鳴らした。
はじめてリハーサルをした時から、O君は大分上手くなったと思う。
バンド結成当初は、僕よりもO君の方が上手かった。
でも、この頃から、明らかにO君の演奏に粗が目立つ様になった。
自分の耳が成長したんだと思う。

演奏をしていると、O君は違う曲を突然弾きだした。
突然の事で、全員唖然とする。
O君は笑いながら。
「おれ、まだ弾けないんだよ、この先!」
メンバーみんな、苦笑いだった。
僕は、O君の演奏で気になる部分があったので、いいタイミングだと思い、指摘した。
するとO君は不機嫌な顔で。
「辻は、頭でっかちになってる。音楽は理屈じゃねぇんだよ。」
そういうと、O君は、ギターを弾き始めた。
僕達も続いた。
しばらくすると、O君が曲を止める仕草をする。
「みんな!もっとシャウトしろよ!気合いが入ってないぞ!」
「いやいや。O君。お前もそれならシャウトしろよ。」
僕が言うと、O君は怒りだした。
「俺はリーダーなんだ!なんで俺の言う事を聞かないんだ!みんな好き勝手やりやがって!」
そう言うと、部屋を出て行ってしまった。
取り残された僕達も、怒りが込み上げてきた。
弾けないからといって、突然違う曲を弾きだしたり、突然怒り出したり。
僕達は、まだ予約時間が余っていたが、帰る事にした。
ロビーで煙草を吸いながら、テレビを見ていたO君に、お金を叩きつけて帰った。

地元に着いて、N君の家に寄った。
Y君が言った。
「もうさ、解散しようぜ。俺もそんなにバンドやりたいって感じじゃないし。」
それからY君から、いろいろ話を聞いた。
僕以外のメンバーから金を借りては返さない。物を借りても返さない。
練習もしないのに、大口ばかりで、都合の良い時だけリーダー面。
不信感が募っていた。
Y君もN君も、今日の一件で、相当頭に来た様子だった。
もう、僕一人の力じゃ、どうしようもない。
解散するしかない。そう思った。

【解散】
あのリハーサルから、一ヶ月振りにメンバー全員集まった。
地元の公園。いつも誰もいない、寂れた公園。
Y君、N君、僕は先に着いてO君を待った。
しばらくすると、O君が現れた。
沈黙が続いたが、O君が切り出した。
「解散するのか?」
しばらくして、Y君が答えた。
「3人とも同じ考えだ。解散しよう。そうでなくても、俺達はもうお前とはバンドをやらない。」
ここで、O君に異変が起きた。
号泣だった。
「俺は、お前達とバンドがやりたいんだよ!なんでダメなんだよ!」
僕はその姿を見ていられなかった。
幼稚園から、ずっと一緒だった。親友と呼べる仲だと思っていた。
そんなO君の姿を見ていられなかった。
Y君もN君も、もう信用出来ない。バンドやるなら、他の誰かとやってくれ。
そう言うと、O君は肩を落とした。
「なぁ、辻もなのか?」
O君は、涙でグチャグチャになった顔で、僕を見つめた。
「ごめんな。音楽を真剣に追求してみたいんだ。だから、ごめん。」
そういうと、O君は何も言わず、去っていった。
O君が去り、しばらくして僕達も帰る事にした。

その後、N君と一度だけリハーサルをしたが、それっきりになってしまった。
季節は、バンドを組もうと盛り上がった春を迎えていた。

僕は吹奏楽部の部員として、音楽を、打楽器を勉強しようと心に誓った。

【その後】
僕は吹奏楽部で、日夜練習に明け暮れた。
今思っても、あんなに毎日が楽しかった事はない。毎日が打楽器の事ばかり。
休みの日も、こっそり学校に行っては練習したり、スコアを読んだりする日々を送っていた。

でも、今でもふと思い出す。バンドメンバーの事を。
結局、バンド名は決まらなかった。
ライブも出来なかった。
当然、衣装も作らなかった。

その後、バンドメンバーとは、成人式で再会する事となる。
あの時の事もあってか、メンバーとは会話する事はなかった。
そして、今現在。O君とは全く連絡が取れない状態だ。

【終わりに】
はじめてバンドを組んだ事のある人なら、多かれ少なかれ、こういった経験をした事があるだろう。
高校、短大と吹奏楽部員として活動し、卒業後はサポートという形で、いくつものバンドに参加してきた。

バンド内恋愛でバンドが解散。
メンバーが蒸発してしまった。
いつまで経っても曲が進まない。
金銭問題。
・・・・etc
いろいろ経験してきたが、それでもバンドという形で、今も活動していたりする。
僕もいろいろ経験してきて、そういう問題は起こらなくなってきた。
しかし、それでもやはり問題というのは常にある。
でも、だからやらない。という理由にはならない。
その時は上手くいかないかもしれない。でも、それを次に繋げれば良い。
何度でもやり直せば良い。やり直すのに、遅いなんて事はない。

ドラム道場のレッスンでは、O君達とリハーサルをしていたスタジオを利用している。
ロビーには高校生や、大学生の若いバンドマンがたくさんいる。
レッスンの合間。そんな彼らを眺めていると、自分の高校生時代の、O君達とのバンドを思い出させる。
夢を語ったり、好きな女の子の話をして盛り上がったり、ケンカしたり。
大きな事をいうつもりはないが、そうやって時を重ねていく。
振り返った時、音はいつまでも残っている。
グチャグチャな演奏だったけど、みんなで作り上げた音楽は何にも変え難い。
彼らにも、そんな素敵で苦しい時間を、十分に堪能してほしいと思う。