私は大学病院で助手をやっていた頃に大阪のK病院で男性不妊症専門外来を担当していた時期がありました。
この専門外来というのはかなり特殊な雰囲気です。

これまでの不妊症関係の記事にも書きましたように、現在では不妊で悩んでおられるカップルはおよそ10組に1組の割合で存在します。もちろんすべての方がいきなり男性不妊症専門外来に来られるわけではなく、一般的にはまず女性が産婦人科を受診され、その後経過により男性が泌尿器科受診(産婦人科によっては不妊検査のひとつとして精液検査がすでに行われている場合もありますが)というのが一般的です。
男性不妊症専門外来にはこのようなコ-スでふるいにかけられたいわゆる重症の男性不妊症患者さんが
紹介受診の形で受診されるケ-スがほとんどです。
具体的には乏精子症(精子濃度が2000万/ml未満)もしくは無精子症の患者さんです。
ほとんどがご夫婦で一緒に来院されますが、専門外来を紹介受診されるぐらいですのでそれなりの重症度の説明を前医より受けておられることもあり、診察室は初診時よりかなり重苦しい空気になります。
(それだけお子さんができないことがお二人にとって大問題であるということなのですが)
特に無精子症であることがわかったり、無精子症の患者さんに行う染色体検査でなんらかの異常がみつかった時などの説明は、悪性疾患の患者さんへのがん告知の状況に似ているところがあります。
(通常不妊症に関係するような染色体異常はご本人の生命を脅かすようなものではないのですが)
両方とも御本人が大きなショックを受けられるのは同様ですが、大きな違いはがん告知の場合は周囲の方が患者さんを気遣うような感じになりますが、無精子症の患者さんの場合は言葉は悪いかもしれませんが一時的には患者さんがある種の罪人のような立場に追い込まれてしまうような雰囲気になってしまいます。
(これはあくまでも個人的な感想なので、表現の仕方はすこし誤りがあるかもしれませんが・・・)

イメージ 1このように以前は射出精液に精子が認められない場合は
絶望的な説明のみをせざるえなかったのですが、
最近ではお二人のご希望によっては精巣内精子を検索して、もし発見できればその精子を用いて顕微授精を行うという方法が残されています。
右の写真はその精巣内精子を検索している術中写真です。
手術は全身麻酔で行われ、あっという間に精子をみつけることができることもあれば、片側の精巣のみでは精子が発見できず、両側の検索のために2時間近くも時間がかかることもあります。

ただ、この精巣内精子の検索を行っても精子が発見され
なかった場合は、最終通告という我々にとってもつらい
宣告をしなければいけません。