現在およそ10組のうち1組のご夫婦に残念ながら子供ができないと言われています。
その原因は男性側・女性側それぞれに50%ずつであることがわかっており、
昔のように子供ができなければまず奥さんが婦人科受診するだけでなく、
旦那さんに関しても最低限精液検査は受ける必要があります。
男性の場合はこの精液検査によりある程度原疾患の重症度が予測されます。
その原因に関してはたくさんありここでは詳細は省略させてもらいますが、
特に重要なことは男性不妊症患者の25-30%に認められるとされる精索静脈瘤などは
手術をすることで30-50%のご夫婦で妊娠が成立したという報告もあり、
いかに男性側の精査加療に意義があるかを理解していただいてほしいと思います。

残念ながら色々な検査を行ってもすべてのご夫婦において不妊の原因が明快になるわけではなく、
状況的には妊娠可能と判断されながらも妊娠が成立しないことも多いわけです。
こんな場合には次のステップとしてまずAIH(人工授精:精子を子宮の中に直接送り込んで、
卵子と精子が出合う確立を高める治療法。送り込む精液に関しては各施設によって少し処理を
加えることが多い。)が行われます。この手法は保険外治療ではありますが、
1回1-2万円とまだリ-ズナブルな値段であり、かつ人工的に精液を子宮内に入れるとはいえ
妊娠の成立する過程は自然妊娠と同様であるため、チャレンジされた方も多いのではないでしょうか。

AIHで妊娠が成立しなかった場合、もしくはもともとの検査で精子数が極端に少なかった場合などは
ART(補助生殖医療)を用いた不妊治療が行われます。

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具体的には
IVF-ET(体外受精-胚移植):体の外で卵子と精子を一緒に培養して受精させ、受精卵がある程度成長した段階(胚)で子宮内に移植して着床を待つ治療法。
ICSI(顕微授精):1個の卵子に1個の精子を人工的に注入して受精させる手法。(右の写真はまさに卵子内にインジェクションピペットを入れようとしている瞬間です)
の2つの方法があります。


特に1992年に開発されたICSIという手法はその後の不妊治療を大きく変えてしまいました。
極論すれば「卵子と精子がそれぞれ1個ずつあれば妊娠する可能性がある」という技術なのですから。
男性側で言うと射出精液に精子が全く含まれないような場合でも、
精巣内を丹念に検索すれば精子を検出できることもあり、
昔であれば断念せざるえなかったご夫婦にも妊娠、挙児の可能性が出てきました。
ただこれらARTを用いた不妊治療には問題もあり、
まず保険外治療で高額であること(20-30万円/回というのが相場でしょうか。
しかも妊娠が成立する、しないに関係なく1回分の値段です)、
妊娠の成立過程に人工的な部分が多く、生理的に受け入れられないご夫婦もおられること
などがあげられます。

このようなめざましい技術革新はすばらしい恩恵をもたらしたとは思いますが、
泌尿器科医の立場からすると男性側の十分な精査が行われることなく、
あまりに安易にARTを用いた不妊治療が行われているケ-スがあることは
大きな問題だと思っております。