戻るはずの敷金が・・・~敷引特約~ | 法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

法律を科学する!理系弁護士三平聡史←みずほ中央法律事務所代表

大学では資源工学科で熱力学などを学んでいました。
科学的分析で法律問題を解決!
多くのデータ(事情)収集→仮説定立(法的主張構成)→実証(立証)→定理化(判決)
※このブログはほぼ法的分析オウンリー。雑談はツイッタ(→方向)にて。

Q  敷金は,退去時に原状回復の費用を控除した金額が戻ってくるのでしょうか。

誤解ありがち度 3(5段階)
***↓説明↑***
1 一般の方でもご存じの方が多い
2 ↑↓
3 知らない新人弁護士も多い
4 ↑↓
5 知る人ぞ知る

ランキングはこうなってます
このブログが1位かも!?
ブログランキング・にほんブログ村へ

↑↑↑クリックをお願いします!↑↑↑

A 原則はそのとおりです。ただし,敷引特約がある場合は別です。

【敷引特約】
敷金は,退去時に原状回復の費用を控除した金額が戻ってくるのでしょうか。

→原則はそのとおりです。ただし,敷引特約がある場合は別です。

一般的に,敷金は建物等の賃貸借契約の開始時点で賃借人が賃貸人(オーナー)に預ける金銭です。
そして,退去後,滞納賃料や原状回復の費用を控除した上で,残額が返還される,ということになっています。
しかし,個別的な契約の中で,一定額は自動的に差し引く,とされていることもあります。
敷金の一部を差し引く,という意味で,「敷引特約」(しきびきとくやく)と呼んでいます。

【敷引特約の有効性】
私が住んでいる賃貸マンションの賃貸借契約では,敷引特約が付いています。
自動的に控除される金額は30万円となっています。
原状回復の費用はせいぜい10万円程度のはずです。
やはり,特約がある以上は差し引かれるのは仕方ないのでしょうか。

→状況によっては「高過ぎる」ものとして敷引特約は無効となります。

敷金の本来の性質から考えると,控除されるのは,滞納賃料と原状回復の費用くらいです。
賃料の滞納がなければ原状回復費用だけとなります。
敷引特約は,原状回復費用を固定化したもの,という性格が典型的な考え方です。
そうすると,「平均的な原状回復費用」と「控除額(敷引の金額)」が大幅に違わない範囲なら整合性はあります。
しかし,かけ離れていると整合性がない,ということになります。
法律上は,信義則に反して「消費者の利益を一方的に害する」ものとして,敷引特約が無効とされる可能性があるのです(消費者契約法10条)。

[消費者契約法]
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第十条  民法 、商法 (明治三十二年法律第四十八号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項 に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

【敷引契約の有効性判断基準】
どの程度「高過ぎる」場合に,敷引特約が無効となるのでしょうか。

→一般的・平均的な原状回復費用が基準となります。また礼金・賃料額等も総合的に判断されます。

敷引契約の有効性については,法律上金額や割合の基準が規定されているわけではありません。
しかし,多くの裁判でこの点が争われ,裁判例として個別的な判断が蓄積されています。
その上,最高裁判例としてもいくつか判断が示されています(後掲)。
これらの判断をまとめると次のようになります。

<敷引特約の有効性判断要素>
あ 一般的・平均的な原状回復費用(通常損耗の補修費用)
い 賃料額の近隣相場との乖離
う 敷金等,その他の負担の有無・金額
え 契約締結時になされた説明の程度

<判断基準>
※それぞれの場合の判断の方向性です。必ずこのような最終判断に至るわけではありません。
・「あ」と敷引の金額(控除額)が近い→有効
・「あ」よりも敷引の金額が大きい
 ・他の賃借人の負担(「い」「う」)が相場よりも低く抑えられている→有効
 ・他の賃借人の負担が相場と変わらない→無効
・契約締結時に敷引特約の説明がなされなかった→無効

[最高裁判所第1小法廷平成21年(受)第1679号敷金返還等請求事件平成23年3月24日]
(略)消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,当該建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額,賃料の額,礼金等他の一時金の授受の有無及びその額等に照らし,敷引金の額が高額に過ぎると評価すべきものである場合には,当該賃料が近傍同種の建物の賃料相場に比して大幅に低額であるなど特段の事情のない限り,信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものであって,消費者契約法10条により無効となると解するのが相当である。
 (3) これを本件についてみると,本件特約は,契約締結から明渡しまでの経過年数に応じて18万円ないし34万円を本件保証金から控除するというものであって,本件敷引金の額が,契約の経過年数や本件建物の場所,専有面積等に照らし,本件建物に生ずる通常損耗等の補修費用として通常想定される額を大きく超えるものとまではいえない。また,本件契約における賃料は月額9万6000円であって,本件敷引金の額は,上記経過年数に応じて上記金額の2倍弱ないし3.5倍強にとどまっていることに加えて,上告人は,本件契約が更新される場合に1か月分の賃料相当額の更新料の支払義務を負うほかには,礼金等他の一時金を支払う義務を負っていない。
 そうすると,本件敷引金の額が高額に過ぎると評価することはできず,本件特約が消費者契約法10条により無効であるということはできない。

[最高裁判所第3小法廷平成22年(受)第676号保証金返還請求事件平成23年7月12日]
本件特約は,本件保証金のうち一定額(いわゆる敷引金)を控除し,これを賃貸借契約終了時に賃貸人が取得する旨のいわゆる敷引特約である。賃貸借契約においては,本件特約のように,賃料のほかに,賃借人が賃貸人に権利金,礼金等様々な一時金を支払う旨の特約がされることが多いが,賃貸人は,通常,賃料のほか種々の名目で授受される金員を含め,これらを総合的に考慮して契約条件を定め,また,賃借人も,賃料のほかに賃借人が支払うべき一時金の額や,その全部ないし一部が建物の明渡し後も返還されない旨の契約条件が契約書に明記されていれば,賃貸借契約の締結に当たって,当該契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上,複数の賃貸物件の契約条件を比較検討して,自らにとってより有利な物件を選択することができるものと考えられる。そうすると,賃貸人が契約条件の一つとしていわゆる敷引特約を定め,賃借人がこれを明確に認識した上で賃貸借契約の締結に至ったのであれば,それは賃貸人,賃借人双方の経済的合理性を有する行為と評価すべきものであるから,消費者契約である居住用建物の賃貸借契約に付された敷引特約は,敷引金の額が賃料の額等に照らし高額に過ぎるなどの事情があれば格別,そうでない限り,これが信義則に反して消費者である賃借人の利益を一方的に害するものということはできない(最高裁平成21年(受)第1679号同23年3月24日第一小法廷判決・民集65巻2号登載予定参照)。
 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,本件契約書には,1か月の賃料の額のほかに,被上告人が本件保証金100万円を契約締結時に支払う義務を負うこと,そのうち本件敷引金60万円は本件建物の明渡し後も被上告人に返還されないことが明確に読み取れる条項が置かれていたのであるから,被上告人は,本件契約によって自らが負うこととなる金銭的な負担を明確に認識した上で本件契約の締結に及んだものというべきである。そして,本件契約における賃料は,契約当初は月額17万5000円,更新後は17万円であって,本件敷引金の額はその3.5倍程度にとどまっており,高額に過ぎるとはいい難く,本件敷引金の額が,近傍同種の建物に係る賃貸借契約に付された敷引特約における敷引金の相場に比して,大幅に高額であることもうかがわれない。
 以上の事情を総合考慮すると,本件特約は,信義則に反して被上告人の利益を一方的に害するものということはできず,消費者契約法10条により無効であるということはできない。

<<告知>>
みずほ中央リーガルサポート会員募集中
法律に関する相談(質問)を受け付けます。
1週間で1問まで。
メルマガ(まぐまぐ)システムを利用しています。
詳しくは→こちら
無料お試し版は→こちら

<みずほ中央法律事務所HPリンク>
PCのホームページ
モバイルのホームページ

ランキングはこうなってます
このブログが1位かも!?
ブログランキング・にほんブログ村へ

↑↑↑クリックをお願いします!↑↑↑

不動産に関するすべてのQ&Aはこちら
お問い合わせ・予約はこちら
↓お問い合わせ電話番号(土日含めて朝9時~夜10時受付)
0120-96-1040
03-5368-6030