(つづき)
色褪せた「ただの場所」に呆然と立ち尽くす私。
とりあえず参拝しましたが、もちろん何のメッセージも返ってきません…
仕方がないので、「もう帰ろう……」
滞在時間は、きっと5分にも満たなかったでしょう。
参道を戻りながら、「もうここへ来ることはないだろう」と呟いた自分に驚きました。
そう、晴明神社は、私にとってもはや「特別な場所」ではなくなっていたのです。
まさかこんな日が来るなんて…!
今回、印象に残ったのは、「晴明桔梗」だけ。
晴明神社の社紋である「五芒星」の由来となっている花です。
6月から9月頃までが見ごろだそうですが、今年は暑さのせいか、11月でも咲いていました。
「あ、まだ咲いてる!」って。
なんだか嬉しくなりました。
このあと向かったのは、廬山寺(ろざんじ)。
前夜、ふと紫式部にゆかりのある場所ってないのかな?と検索して見つけた寺院です。
この寺院は室町時代に現在地へ移転されたそうですが、
実はこの場所――
平安時代には、紫式部の曾祖父・藤原兼輔の邸宅があった場所。
紫式部もここで暮らし、結婚後も娘を育て、『源氏物語』も執筆したそうです。
境内には、当時の庭園を表現した「源氏庭」があります。
そこにも、紫色の桔梗がまだ咲いていました。
ちなみに『源氏物語』に登場する「アサガオ」は、この桔梗のことなのだそう。
晴明神社では何も感じなかったのに、ここでは胸の奥に何か感じるものがあったので、導かれて来たのだろうと思いました。
昨年のNHK大河ドラマ『光る君へ』は、紫式部の生涯を描いた作品です。
私は人生で初めて大河ドラマを観たのですが…
最初のころは見るたびに涙が止まらず、番組の最後に物語の舞台となった紫式部や藤原道長ゆかりの地が紹介されるコーナーになると、もう嗚咽するほどでした。
さすがに自分でもおかしいと思い、分析してみると、
紫式部を見ても涙は出ないのに、
藤原道長を見ると涙が出る。
胸にぐぐっと何かがくるのは、道長が陰陽師に相談するシーン。
陰陽師が祈祷や呪術を行い、人々がそれを疑いもなく信じていた時代の空気……
ここでした。
奇しくも大河ドラマが始まる頃、生徒ハルさんが私の講座にやってきました。
やがて分かったのは、彼女に感じた懐かしさや物悲しさは、陰陽師時代の過去世にあり、その清算のために、今世で再会したということでした。
清算が終わると、私のミッションも徐々に終盤へと向かい、ハルさんはアメリカへ移住していきました。
今思うと、何もかもがシナリオで、きっと、紫式部が『源氏物語』を書いたのもシナリオ。
当時の状況を後世に残す手段は「書くこと」しかなかったから。
それが彼女のミッションだったのかもしれません。
まさか1000年後に、大河ドラマになるなんて、想像もしていなかったでしょうが。
源氏庭を眺めながらそんなことをぼんやり考えていたら、気づけば小一時間が過ぎていました。
どこかでランチでもして、次なる目的地、下賀茂神社へ向かおうと思ったのですが…
ここから大変なことになりました。
(つづく)



