お昼休み、会社を一歩出たそのとき
玄関先の水溜りを見て、思わず
“あ~あ…”
昨日そういえば、
「明日から梅雨入りだそうだよ。」
って言ってくれていたのに…
傘忘れた。
会社の傘たての場所まで戻り
最も忘れ物の雰囲気をかもし出している
骨の折れた傘をつかみ
「ちょっとだけ貸してね。いいよね。ちょっとだし。」
と、つぶやいてコンビにまでお弁当を買いに走った。
思わぬ土砂降りで、骨の折れた傘は耐え切れず
洋服が少しだけ濡れてしまった。
傘から滴る水滴を落とし
折れた骨をなるべくまっすぐに戻して
傘たてに戻そうとしたそのとき
エレベーターから沢山の人が降りてきた。
傘たてに向かう人々。
「やばい。」
あわてて傘を戻そうとして
傘の柄に名札らしきものがついているのを
そのとき初めて発見。
「さらにやばい。誰かの傘だったんだ!」
注意される。どうしよう。
私だったら、自分の傘を黙って使われるなんて
あまり気分よろしくない。
モジモジしている私をよそに
その傘たてから、お昼へ向かう社員たちの
波が、来るときと同じ勢いで引いていった。
ああ・・・よかった。
あの中に、この傘の持ち主はいなかった。
さて、なんて名前の方の傘をお借りしたんだろう。
清水さんか?
田中さんか?
罪悪感から
その名札から攻撃されるような気持ちで
名前を確認した。
しかし、そこには・・・
こう書いてあった。
“善意の傘”
頭の後ろを
何かに殴られたような
そんな感覚だった。
この傘は
つかっていいいですよって
その傘たてにはじめから座っていたのだ。
私のために、最初から微笑んでいてくれていたのだ。
ここ最近特にいつも何かにおびえ
不安と心配ばかりし
いつも何かに攻撃される
準備ばかりしていた私。
この傘からも
この傘の名札からも
清水さんや
田中さんや
想像上の人の
怒った顔を感じて動揺していた私。
そんな私に、この善意の傘は
最初から微笑んでいた。
こんなときの
お困りのあなたのために(^^)
折れた骨で、少しばかり不便だけれど
どうぞ!って。
もうそろそろ
人を信じていいんじゃないか
もうそろそろ
目の前の人の善意を
素直に受け取ることをしても
そう、
その少しばかり大きすぎる水玉模様の傘に
肩をたたかれたような気がしていた。
善意の傘。
梅雨入りの日に
優しい、そして
とても大切なメッセージを届けてくれた。
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誕生日と名前から
導き出される人生の設計図