船村徹さんの本 | ランゴワンの地図

ランゴワンの地図

 2009年の8月、家の仏壇の引き出しから一枚の古地図を発見しました。地図の中央付近には、「ランゴワン」という地名が記してありネットで検索してみると、1942年1月11日、旧日本軍が初めて落下傘による降下作戦を行った、インドネシアの村の名前でした。

演歌巡礼―苦悩と挫折の半生記/船村 徹
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酒・タバコ・女 そして歌/船村 徹
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歌は心でうたうもの―船村徹・私の履歴書/船村 徹
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 いろいろ読みましたが上記の三冊が船村さんの人生っぽいです。 最初の『演歌巡礼』は地方新聞紙に掲載された記事を纏めた物で、次の『酒・タバコ・女そして歌』は新聞紙上では書けない裏話が書いてあり、最後の『歌は心でうたうもの』は前著の裏話・悪口をスマートに削除した感じです。


 一番本音を語っているのは『酒・タバコ・女そして歌』なんですが、『演歌巡礼』を読んだ前提で書かれているので、一読された後の方が話がスムーズに繋がり面白いです。 下記の文章は、『酒・タバコ・女そして歌』から転載しました。 ちょっと長いですが良い話ですよ。(涙)



『酒・タバコ・女そして歌』 刑務所の慰問 (P306~308)


 現在、全国に6カ所ある女子刑務所を中心に刑務所慰問を続けている。あるとき、弟子たちと車で北海道を旅していた。どこかで食事でもするかということになって、ドライブインをさがしながら走り続けた。大原野、一本道の途中で、ようやく見つけて中に入った。「いらっしゃいませ」と、やってきたウエートレスを待たせ、みんなはそれぞれに好きな物を注文した。やがて、そのウエートレスが、私の注文したビールを持って来た。コップを置き、ビールをつぎながら、彼女は「先生、おやせになりましたね」と言う。テレビが普及して、私の出演回数が多くなってから、よく見ず知らずの方に声をかけられる。
「おやせになりましたね」といわれたときも、ああテレビで見て云ってるんだろうと、軽く思って曖昧な返事をした。すると彼女は、持っていたお盆を空いているテーブルの上に置き、キチンと両手をそろえて、私に頭を下げた。
「あのときは、本当にいろいろお世話になり、ありがとうございました」
 その瞬間、私は気づいた。どこかの刑務所で知り合ったのだ。ところが、刑務所内は、受刑者全員同じユニホームを着ている。それも何百人と一度に逢うのだ。しかも、化粧っ気もまったくない。面と向かいあってじっくり話をした人でも違う洋服を着、化粧をされると男の私にはちょっともわからない。
「どうも・・・・」といってから私は聞いた。「どこで会ったかな・・・・」
 すると、その彼女は「栃木でお世話になりました」といった。ドライブインには、私たち以外にもお客さんがいる。でも、私は言った。「よかったね」
 短い言葉だったが、私としては、そのたった五文字の中に、さまざまな意味を込めたつもりだ。
「よくがんばったね」「いい職場がみつかり、楽しそうだね」「そして、これからもしっかりね」。百の言葉を使っても、言いつくせないことだったが、私の口から出た言葉は「よかったね」だけだった。彼女はだまって頭を下げ、お盆をとって私の席から離れた。
 私がどんな表情をして食事をしたのかはしらない。しかし、同行した弟子たちは、何かただならぬ雰囲気を感じたのだろう。無駄口をたたかず、静かに食事をしてくれた。食事を終え、勘定を払うとき、店内を見まわしたが、彼女の姿はなかった。一瞬、ためらったが、そのまま弟子たちと車の方へ歩き出した。車のそばで、彼女が待っていた。
「先生、これ」といって大きな紙袋を手渡された。「ありがとう」とだけ言って車に乗り、私たちは出発した。一本道だった。彼女はいつまでも、いつまでも手を振っていた。袋の中には缶ビール、アメ、おまんじゅう・・・・といろいろ入っていた。