寺内大吉さん
通勤路の増上寺境内に、人知れず建てられた看板。
先月中ごろから目にするようになった。
去る9月6日、増上寺第87世法主・成田有恒さんが逝去された。聖職者であられるので、この場合は「逝去」ではなく「御遷化」、「さん」ではなく「台下」という言葉がふさわしい。
翌週には密葬が営まれ、当時名古屋にいた私は新聞の首相動静に福田首相が弔問されていた記事を読んでこの事実を知った。一昨年から闘病生活をされていたという。
ペンネームを寺内大吉さんと申し上げ、直木賞作家であられ、スポーツ評論としても知られる。競輪やキックボクシングの解説者を務め、著書には麻雀の攻略本も出版されているなど、俗世の世界にも明るいユニークなお坊さんであられた。
そして私。
私が増上寺の近所に赴任した当時は、人員不足もあって多忙を極め、週に幾日も徹夜することがあった。そんな徹夜明けの朝6時に、増上寺で行われる朝勤行に加わるのが唯一の楽しみでもあった。その幾度かの朝勤行でお見かけしたのが山主さんだった。
仕事のピーク時には、職場に3連泊することもあった。3日連続で朝勤行に並んだわけだが、ちょうどそのときは寒い真冬で、2・3人しか参加していない勤行終わりの御話に「寒いので気をつけるように」と仰られたのが記憶に深く刻まれている。
この言葉には励まされた。
その後も徹夜明けは続いたが、気がついたころには朝勤行のお勤めが若い僧侶に代わって、檀家でもない私がまさか御闘病の由など知るわけもなく、気がついたときにはこの知らせであった。誠に残念でならない。
本日は法主台下の表葬儀。
札を拝見すれば、徳川宗家の御当主をはじめ、福田前首相や、千家のお家元・大宗匠も名を連ねておられる。
御法名は
天蓮社大僧正超譽上人英阿大吉有恒大和尚 荘厳浄土
謹んでご冥福をお祈りしたい。

