昨日、8中総の志位報告を最後まで視聴した。聞きながら頭に浮かんだのは、杉浦明平の小説『細胞生活』(1956年)のこんな一節だった。

──────────────────

 分派というものがある。君たちは知っておるか。分派はいかなるものよりも憎むべき敵だ。自由党よりも憎むべき悪質な敵だ。分派はアメ公、帝国主義、反動の手先、スパイとして党を内からコーランし破壊しようとくわだてておる。残念ながらわが党の内にもこの憎むべき分派が発生した。今から読み上げるからよく聞きたまえ。広島県××地区委員会は、米帝の手先宮本顕治の即自除名を決議した。××県××地区委員会も吉田のスパイ宮本を除名せよ、と中央に要請した。東京都東芝細胞は宮本の除名を要求した。広島県呉××細胞はアメ公の手先宮本顕治とその一派の除名を決議した。福岡県××細胞は…神奈川県××細胞は…。

 

 神藤委員長はまなじりをますます釣り上げて、宮本顕治一派を除名した地区委員会や細胞の名前を何十となく並べはじめた。一同は声なく聞いている。

 

 「ところで、われわれは反動の手先、スパイと容赦なくたたかわねばならん。君たちも共産党員である以上、こういう敵を一分間も見のがしておいてはならん。断固として処断すべきではないか、どうか討論してくれ」

 

 いつもおしゃべりな明平さんも、しばらく声を出す力をうしなった。やっとのことで、

「宮顕さんといえば、ぼくは文学的にはあまりえらいとは思っていないが、ともかく獄中13年、党と思想のためにがんばりぬいた人じゃないか。その宮顕さんがスパイになるなんて、僕にはちょっと考えられない。どういうことなんだろう?」とボソボソたずねたが、委員長は黙殺してしまった。

「分派はフワシズムの手先だということはわかったが、だれやだれが分派かね?」と、やっと萩原君が口をきいた。

「誰とはいえんが、要するに分派はみんな敵だ。」と今度は委員長も答えた。

「ちょっとおたずねしますが、」と泉村で医師をしている青年北山氏が顔をあげた。「分派とはどういうことですか?」

 

 神藤委員長の小さな顔はくろくなって、目はキュッと釣りあがった。

「分派とはなんだと?──そんなことをきくやつが分派だ!」

 

──────────────────(続)