北朝鮮の外相がトランプさんの会見に反論して、制裁は一部の解除しか求めていないと述べている。それはそうなのかもしれないが、いずれにせよ、その反論も含めてのことだが、明るみに出た交渉の内情を見ると、非核化の先は見通せるような段階ではない。率直に言って、94年の米朝枠組み合意の時のことを考えると、まだ初期の段階のそのまた初期という感じがする。

 

 枠組み合意の時も、最初はこんな感じだった。アメリカの側は、北朝鮮がまずどこまで譲歩するかを探り、北朝鮮の側も、アメリカがどこまでなら譲ってくるかを探っていた。でも、お互いに信頼関係がないわけだから、相手が譲ると言っても信用できない部分が残るので、手詰まり状態が続くのである。

 

 それが打開されたのは、お互いがとるべき「すべての措置」を明確にしたことであった。今回のように「まずこれを」というのではなく、まさに「すべて」である。

 

 北朝鮮側で言うと、すべての核施設に対する査察を認め、使用済み核燃料棒の量も申告し、それを将来の海外搬出を念頭においてアメリカの作業によって封じ込めることを認めるなど、本当にこれで北朝鮮から核兵器を開発する要素がなくなるよね、ということまで明らかにしたのである。

 

 アメリカ側で言うと、今回も話題になった米朝の連絡事務所の設置や、北朝鮮を攻撃しないことの約束だけでなく、北朝鮮に二基の原子炉を提供することまで約束し、その原子炉が完成するまでの間、毎年、50万トンの重油を提供することによって、北朝鮮のエネルギー事情の改善を約束したのである。

 

 こうやって、やるべきことをすべて明らかにした上で、じゃあ、最初にお互いが何をやるかということになっていく。その次の段階ではお互いが何をするのか、その次ではどうするか、そして最終的な終わりかたをどうするかということだ。

 

 今回の米朝交渉には、そこが決定的に欠けている。トランプさんは北朝鮮の経済発展を口にするが、じゃあそのために何をするのかを明確にしていない。金正恩は、寧辺の核施設の廃棄というだけで、すべての核施設を申告して廃止するのか、保有している核兵器はいくつあり、それをどうやって廃棄するのかを明確にしていない。

 

 そこがないまま、部分的なところで妥協しようとしても、そもそも無理。94年の交渉の全経過がそれを示している。

 

 これは「ディール」の弊害の側面。過去の外交交渉がどうだったとか、外交の積み上げを無視するから、こうなるのである。

 

 前途多難。その言葉がピッタリかな。トランプも金正恩も、生き残ろうと思ったら、もっと真剣にならなくちゃ。