何のことって、決まっているでしょ。自衛官の募集で6割もの自治体が協力していないと述べたことである。

 

 第一次内閣の失敗をふまえ、第二次以降、それなりにうまくやっていると思ってきた。戦後70年談話でも、中身はスカスカだったけど、マスコミが騒いだキーワード(「侵略」「植民地支配」「反省」「お詫び」)を入れたことで、「ホントはリベラル?」と思わせたりした。統計偽装で揺らいでいるけれど、就職にかつてほど困っていない学生などにとっては希望の星である。左翼が安倍さんを批判すればするほど、中間派との溝が深まる構造が続いてきた。

 

 しかし、この発言は、それらの成果を一挙に覆すほどのものである。安倍さんは、改憲の必要性を強調したいがためにこの発言をしたのだが、これで憲法改正の事業は大きく後退した。あきらめるしかないというところまで追い込まれるのではないか。

 

 だって、まず自治体の過半数を敵に回したことである。憲法学者の多数がいまだに自衛隊違憲論だと批判しても、もともとそうなので、国民の認識は変わらない。だけど、自治体の過半数も自衛隊違憲論にこだわりをもっていると宣伝してしまったら、国民の自衛隊に対する認識に影響を与えることは必定である。

 

 そしてその結果、自衛隊そのものをめぐって、国民の中に重大な対立があると思わせてしまったことである。それはすごい影響を与えるのではないか。

 

 そもそも現在、自衛隊がいろいろと努力を積み重ねることで、国民の大多数は自衛隊のことをリスペクトしているのである。それでようやく自衛官は安心して任務を遂行できてきた。

 

 ところが、安倍さんは、その自衛隊を、かつてのような対立と抗争の世界に引きずり込んでしまった。国民に愛されてきた自衛隊を最高司令官が突き落としたのである。自衛官にとってはたまらないことだ。

 

 護憲派の私にとっては、これで改憲が遠のくことは歓迎すべきことではある。安倍さん、ありがとう。そう言わなければならないかもしれない。

 

 だけど、護憲派といっても、どうやったら自衛隊と9条を共存させようかと悩み、努力してきた護憲派に属する私にとっては、歓迎すべきではない事態なのだ。自衛官の募集業務を政治化するなんて、最低の首相である。

 

 今からでもいい。名簿の閲覧を許可している6割の自治体も十分に募集に協力していると評価すべきである。それができないなら、潔く最高司令官を退くべきだ。