いいお店には、いいお客がつくようで。
安い、旨いが当たり前の、大阪の立ち飲み屋さん。
いつも人気で、お店はいっぱいです。
ふと考えてみたら、
「早よしてくれ」
「さっき言うたやないか!」
そんな言葉が飛び交っても良さそうなのに、
そんなことを言うお客はおらず。
もちろん、お店のサービスの素晴らしさはあるけれど、
忙しいから、待たせたりすることだってある。
注文することですら、
お店の人の動きを見ながら、みんなうまいこと差し込みます。
例えば、隣りの人がハイボールを頼んでそれが届いた時に、
「あ、タコのうま煮お願い」
なんて、スッと頼む。
お店の人がこっち方面を向いている時に、すかさず頼む感じ。
お店もお客に気を使っているけれど、
お客もお店に気を使っています。
先日、その飲み屋に行った時も、
相当毎日通っていそうな常連さんがいて。
カウンターに着くなり、お店の人は何も気がずに瓶ビールを出す。
さらにお店の人が、
「ほうれん草とベーコンでええか?」
と訊けば、お客は小さくうなずく。
多分、ずっと瓶ビールとほうれん草とベーコンな方なのでしょう。
1本目の瓶ビールはすぐに空きます。
そのお客さんは、お店の人がカウンターに近づくのを待って、
空いた瓶をすっと持ち上げます。
それが合図なのでしょうね。
ところが、お店の人が気づかなかったりする。
お店はピークの忙しさ。
それでもそのお客さんは、執拗に頼むことはせず。
お店の人が振り向いたり、近づいたりするたびに、瓶のお尻のあたりを持ち上げます。
あまりにも消極的なオーダー。
3回目くらいで、お店の人が気がついて、
「おかわりな」
と、スッと王冠を抜いて、瓶ビールを渡します。
お客さんは苛立つでもなく、ひとりグラスにゆっくり注ぎ、
至福の顔で、ビールをあおります。
人のいい客。
いいお店には、いいお客がつくようです。
おたがいに大事にしあいながら、
今日という日を一緒にすごす。
客がえらいわけでもないし、お店がえらいわけでもない。
一緒にこの場を、この時間をつくる。
人のいい店、人のいい客。
そうありたい、と、いう場が、そこにあります。
その夜も私は、1,280円。
隣のお客は…
510円だった〜
今日もイイ日に。