財政再建は景気にマイナスとの「不都合な真実」をどう打破するか~松田まなぶのビデオレター~ | 松田学オフィシャルブログ Powered by Ameba

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日本を夢の持てる国へという思いで財務省を飛び出しました。国政にも挑戦、様々な政策論や地域再生の活動をしています。21世紀は日本の世紀。大震災を経ていよいよ世界の課題に答を出す新日本秩序の形成を。新しい国はじめに向けて発信をしたいと思います。

●経済対策の効果と財政再建の不都合な真実

 アベノミクス3本の矢のうち第二の矢は「機動的な財政政策」です。政府は今年8月に安倍政権下では最大の事業規模28.1兆円の大型の経済対策を決め、その予算措置化が10月に国会で成立した補正予算で始まりました。

 ただ、今回の対策もそうですが、経済対策のGDP押し上げ効果は、政府の試算数値は事業規模に比して極めて控えめ、小さなものになっています。今回の場合は、事業規模がGDP比で5%超なのに、押し上げ効果はたった1.3%です。

 一つには、財政再建路線のもとで補正予算の財源を国債追加発行ではなく、税収増や歳出削減に求めている部分については、マクロ経済上の効果はあまりないということがあるでしょう。

 マクロ経済でみれば、一国の貯蓄と投資は事後的に必ず均衡します。両者が均衡するように国民所得が変動します。

 単純化のために海外部門を捨象して考えると、財政赤字は民間部門の貯蓄超過(民間貯蓄マイナス民間投資)と一致します。そのように経済が動きます。

 前年よりも財政赤字が縮小すると、民間の貯蓄超過が縮小するよう、経済は動きますが、財政赤字と同じ幅だけ民間投資が増えれば、国民所得は維持されます。しかし、民間投資が増えなければ、貯蓄超過が縮小するように経済が動き、GDPには下方圧力がかかる。

 結局、民間投資が力強く増えている局面でなければ、財政赤字の縮小は経済を縮小させますし、財政政策がマクロ経済上の効果を発揮するためには財政赤字が拡大しなければなりません。

 

 理屈の上では、補正予算で国債を追加発行しなければ経済対策の効果も期待できないということになります。

 「財政再建の不都合な真実」といえるでしょう。

 今回は2.8兆円の国債追加がありましたから、同じく5.2兆円の追加発行をした安倍政権第一回目の対策の時のように、マクロ経済上の効果が出るかどうかが注目されるところです。

 ちなみに、かつて私が大蔵省から経済企画庁に出向し、経済対策が打たれるたびに、そのGDP効果の試算をしていたときには、経済対策で公共事業を追加する際には、補正予算で建設国債を追加発行していました。政府支出から用地費などを引いてGDPベースの政府投資の額を算出し、それに乗数を乗じてGDP押上げ効果を算定するという手法は妥当でした。

 

●消費税率引上げの不都合な真実

 いま、消費税率引上げが景気を悪化させた、悪化させると言われていますが、本来、社会保障費に税収の全額が回る消費税は景気には中立的です。

 消費税を負担する国民の懐から、政府を介して、社会保障給付(年金、医療や介護の自己負担分の軽減など)の形で、国民から国民へと、おカネが移転するだけのことだからです。

 しかし、今般、2度に分けて10%への引上げを目指している消費増税の場合、それで社会保障給付が増える分は税収増の2割程度。

 よく、残り8割は国債の償還に充てられると言われますが、それは誤解です。

 消費税収は全額、社会保障に回りますが、これまで、増嵩する社会保障費の財源手当て(増税)を先送りしてきたために、消費増税をしても、これまでの社会保障を維持するだけで、その財源のうち赤字国債で賄っていた部分が消費税に置き換わる部分が肥大化しているわけです。

 ですから、消費増税は結果として、財政赤字の縮小に寄与する部分が8割あるということになり、マクロ経済上、景気を悪化させるのは当然です。

 高齢化で社会保障給付が増えるに応じて少しずつ消費税率を上げておけば、このような構造にはならなかったのですが、このことも「不都合な真実」といえるでしょう。赤字国債は将来世代へのツケ回しだと言われますが、もうツケ回しの弊害が現われています。

 だからといって、この経済状態では消費税率は上げられない。この袋小路も「不都合な真実」といえるでしょう。

 

●民間部門、どうすればいいのか

 結局、財政赤字の縮小を上回る民間投資の増大が続くような経済を実現しないと、財政再建もできない。だから、まずはアベノミクスということになります。

 ただ、財政政策の効果が小さいことの背景には、そもそも根本的に、個人消費は社会保障などの将来不安で低迷、人口減少下で国内市場が縮小していく中では期待成長率も低下し、企業の国内投資もなかなか出てこず、守りの姿勢、といった民間経済の「笛吹けど踊らず」状態があります。

 GDPに占める個人消費は約6割、民間設備投資は14%、両者併せて4分の3、政府が景気対策で直接コントロール可能とされる政府投資は、GDPの20分の1足らずです。

 また、政府が国債を追加発行して政府投資を増やしても、翌年度の政府投資がさらに増えないと、翌年度のGDP成長にはマイナス寄与をしてしまいます。機動的に財政出動しても、翌年度に元に戻れば、それれだけで経済成長の足を引っ張るのが公共投資。

 ちなみに、安倍政権誕生直後の経済対策で2013年度の政府投資は前年比10.3%増え、同年度の実質GDPも2%成長となりましたが、14年度に政府投資が少し元に戻って▲2.6%とマイナスになると、同年度のGDPは▲0.9%のマイナス成長(消費税の影響もありましたが)、15年度も政府投資は▲2.7%で、実質成長率は0.8%でした。

 公共投資は増やさねばなりませんが、それは景気との関係ではなく、毎年度、着実に計画的、段階的に増やし続けていくことが経済成長に寄与する道だと思います。

 ただ、成長率を上げるには、民間経済でのおカネの循環を強化しなければなりません。将来不安に覆われる国民にとっては、社会保障の安心とともに、実質賃金の上昇が大事。

 守りの姿勢に固執する企業に賃上げを要請しても、なかなか応じないなら、この際、公務員の給与を引き上げて、官が率先して賃金相場を上げていくべきだとの提案もあります。行革には反しますが、マクロ経済的に視点に限ってみれば、効果はあるでしょう。

 日本の場合、初任給が低すぎるという問題もありそうです。これではななか出生率は上がりません。ここだけでも引き上げれば、効果はあるでしょう。

 健全化モードの中で低下したとされる銀行の目利き力を高め、中小零細企業へのカネ回りをよくすることも課題です。

 今回、日銀は9月の「総括的検証」で、イールドカーブを立てて長短金利差、つまり銀行の利ザヤを拡大して信用創造しやすい環境を創る政策を打ち出しました。

 企業部門は貯蓄超過部門から投資超過部門に戻らねばなりません。おカネを借りて、儲け以上におカネを支出する主体への転換です。

 企業の金融資産が、手元流動性や海外M&Aで積み上がるのではなく、国内での事業や設備投資の拡大へと、企業の創意工夫にリスクマネーを回す仕組みの強化も必要です。

 何よりも中長期的に大きいのは、TPPで海外に日本の事業や投資の市場を拡大し、海外で儲けて国内に所得と雇用を生む循環を創ることです。

 ただ、これらはいずれも多くの方々が提案していることですが、即効性はあまり期待できません。構造改革は効果に時間がかかります。

 労働市場改革なども言われていますが、企業の雇用慣行、社会保障制度など社会全体の仕組みが変わり、モビリティーの高い経済社会が実現して、実際に経済の生産性が上がるに至るには、少なくとも数年は要するでしょう。

 企業部門が「選択と集中」へと改革を進め、イノベーションを展開するためにも、やはり、おカネがもっと回る経済をつくらなければ現実的ではないかもしれません。

 

●財政金融政策の役割はおカネの回る経済づくり

 ただ、日本には世界ダントツ一位を四半世紀の間も続けている対外純資産残高が象徴するように、おカネは十分に積み上がっています。

 これを国内での市中マネーの回転につなげるにはどうしたら良いかが課題ですが、幸い、アベノミクスは、世界的に類例がないまでに中央銀行が保有する国債を積み上げるという成果をあげました。

 この状態を金融政策の面で活用するのが、9月に公表された総括的検証で示されたイールドカーブ・コントロールだと思います。

 それは、元来、長期金利は操作できないとされた金融政策のタブーを破るもので、日銀が国債発行残高の半分にもなろうとするだけの国債を保有するに至ったからこそ、長期金利に大きな影響を与えることができるポジションを実現したものです。

 長短金利の利ザヤを確保して銀行の信用創造を促し、ベースマネーではなく、肝心の市中マネーのほうを増やすことになります。

 もう一つ、財政の面で、私が試案として提示している「永久国債オペ」も、日銀がこれだけの国債を保有するに至ったことを土台として、経済のカネ回りをよくする効果をもたらす政策です。

 

●「ストックからストックへ」から「ストックからフローへ」へ

 つまり、政府と日銀を連結した「統合政府」ベースでみれば、日銀が国債を保有することで、その分、政府の債務はマネーに変換されます。

 日銀が多額に保有する国債の一部を、元本返済の不要な永久国債に置き換え、そのまま日銀が永久に保有し続ければ、その分、政府の債務は消滅します。国債の利払いも、日銀からの国庫納付で政府に返ってきます。

 政府と日銀との間の一種の「デット・エクイティー・スワップ」です。

 さて、日本では世界に類例のない国債の60年償還ルールという「減債制度」で国債を減らす仕組みが営まれていますが、実際には、このために毎年度の予算で国債発行残高の60分の1を「定率繰入」して元本償還に充てるために、その分、赤字国債の発行額は多くなっています。今年度当初予算では13.7兆円です。

 これは赤字国債を発行して国債を償還しているに等しく、現実に国債が減る効果はありません。

 ならば、例えば、国債残高のうち赤字国債残高(今年度末555兆円との見込み)について、その60分の1の金額分、日銀保有の国債を永久国債に乗り換えれば、実際に、その分、赤字国債は消滅します。

 そうすれば、その分の「定率繰入」は不要になりますから、毎年度の予算で、同じ国債発行を定率繰入ではなく、国民生活や実体経済に向けた支出に充てられるようになります。

 これは、その分、おカネの流れを従来の「ストックからストックへ」から、「ストックからフローへ」へと転換することになります。

 このことを概念図で示したのが下図です。

 今の減債制度のもとで定率繰入によって起こっている現象は、国債を発行して国債を返す、つまり、満期が来た国債が新規の国債に替わるだけのことです。

 この「永久国債オペ」は、日銀の中に消える国債と同額の国債で財政支出がなされますので、「ストックからフローへ」となって、経済のフローのおカネの流れを直接増やすことになります。

 これによっても今までと比べて実質的な国債残高は変わらない中で、フローのカネ回りが増えるのですから、財政を悪化させずに国債追加発行でマクロ経済効果を生み出す道が実現することになります。

 もちろん、永久国債を保有した分だけ、日銀は将来にわたってマネーを減らせないことになりますから、そこには一定の制約があります。ただ、これだけ日銀の国債保有額が多ければ、そうした制約を課しても、このオペが成り立つ余地は十分にあるはずです。

 このオペの範囲を明確化し、そこにガバナンスさえ効かせることができれば、政策論として提案できる可能性が出てくるものと思われます。

 

松田まなぶのビデオレター、第48回は「財政赤字と経済成長の不都合な均衡、財政政策の経済政策上の効果とは?」。チャンネル桜、10月28日放映。