POIと慢性疾患罹患率の関係 | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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本論文は、POI(早発卵巣不全)と慢性疾患罹患率の関係についての検討です。

 

Fertil Steril 2025; 123: 289(カナダ)doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.08.345

要約:2010〜2015年45~85歳のカナダ人女性12,339名を対象に、複数の慢性疾患罹患率と閉経年齢の関連について前方視的に検討しました(CLSAスタディ)。内訳は、POI(閉経年齢40歳未満)374名、平均的な閉経年齢(46~55歳)7,249名、早期閉経(40~45歳)1,396名、遅発閉経(56~65歳)818名、子宮摘出術後2,502名です。閉経年齢別の複数の慢性疾患罹患率は下記の通り(有意差の見られた項目を赤字表示)。

 

           交絡因子調整後、複数の慢性疾患罹患率オッズ比(95%信頼区間)

子宮摘出術後              1.4(1.3〜1.6)          

POI(40歳未満)            2.0(1.5〜2.6)

早期閉経(40~45歳)         1.2(1.0〜1.3)

平均的(46~55歳)             基準

遅発閉経(56~65歳)         0.9(0.8〜1.1)

 

また、POI群では、虚血性心疾患(オッズ比2.8、95%信頼区間1.7~4.7)、胃潰瘍(オッズ比1.6、信頼区間1.1~2.3)、骨粗鬆症(オッズ比1.6、95%信頼区間1.2~2.1)のリスクが有意に増加していました。

 

解説:北米での平均閉経年齢は51歳である一方、40歳未満で閉経を迎えるPOI(早発卵巣不全)の方が少なからずおられます。POIは、遺伝的要因、自己免疫疾患、手術や放射線による医原性要因など、さまざまな要因が考えられます。また、POIでは、女性ホルモン(エストロゲン)が低下することにより、心臓血管系、免疫系、神経系、筋骨格系などに悪影響を及ぼすことが知られています。しかし、閉経そのものによる慢性疾患罹患率増加なのか生まれつきのものなのかについては定かではありません。また、複数の慢性疾患罹患率は成人の65%以上に悪影響をおよぼすことが知られています。本論文は、このような背景のもとに行われた研究であり、POI女性は複数の慢性疾患罹患率が有意に高いことを示しています。POI女性の約半数は適切なホルモン補充療法を受けていませんが、ホルモン補充療法は慢性疾患罹患率を低下させる可能性がありますので、適切な対応が望まれます。