本論文は、子宮腺筋症では全胚凍結による凍結胚移植で妊娠成績が良好であることを示しています。
Fertil Steril 2024; 121: 460(フランス)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.11.039
Fertil Steril 2024; 121: 440(米国)コメント doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.12.034
要約:2018〜2021年に、胚盤胞胚移植を行う子宮腺筋症患者306名を対象に、新鮮胚移植111名と全胚凍結の凍結胚移植195名の妊娠成績を比較しました(観察研究)。なお、子宮腺筋症の診断は経腟超音波検査あるいはMRIを用いました。腺筋症のパターン(内部びまん性、外部限局性、腺筋腫など)は両群間で有意差を認めませんでした。妊娠成績は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。
新鮮胚移植 凍結胚移植 P値
初回出産率 20.7% 27.2% NS
初回継続妊娠率 22.5% 28.3% NS
累積出産率 30.6% < 44.1% 0.02
累積継続妊娠率 32.4% < 45.1% 0.02
NS=有意差なし
多変量ロジスティック回帰分析により、子宮腺筋症における全胚凍結の凍結胚移植は、新鮮胚移植と比べ1.80倍(95%信頼区間1.02〜3.16)有意に高い出産率をもたらすことが判明しました。
解説:子宮腺筋症の病因はまだ完全には明らかにされていませんが、子宮腺筋症の影響を受けた子宮では、免疫学的変化、エストロゲン過剰症、子宮筋層の蠕動異常、遺伝子発現の変化が報告されており、子宮内膜受容能低下の要因となっている可能性があります。一般に、子宮内膜症のある女性では、ART治療の妊娠成績が良好であることが知られています。卵巣刺激を伴う新鮮胚移植では高レベルのエストロゲンに曝露されますが、高レベルのエストロゲンに曝露されない全胚凍結による凍結胚移植では妊娠成績が改善される可能性があります。本論文は、このような背景の元に行われた研究であり、子宮腺筋症のある女性では、初回胚移植では妊娠成績に有意差を認めませんが、累積の胚移植では全胚凍結による凍結胚移植で妊娠成績が良好であることを示しています。
コメントでは、新鮮胚移植と比べ全胚凍結群はAMHと最大E2値が有意に高く、凍結胚盤胞数が有意に多いことを指摘しています。このため初回胚移植では有意差を認めず、累積胚移植で有意差が出た可能性があり、ランダム化試験による確認が必要であるとしています。
下記の記事を参照してください。
2024.4.10「子宮腺筋症では流産率が増加する」
2023.3.7「子宮腺筋症と子宮内膜受容能:システマティックレビュー」
2022.8.5「MRI診断による子宮腺筋症で出産率低下」
2018.11.12「子宮腺筋症のエコーによる診断」
2018.4.23「子宮腺筋症の治療について:手術療法」
2017.9.20「子宮腺筋症による体外受精の予後調査」
2014.11.10「子宮腺筋症核出術のメリットのある方は?」
2014.5.31「子宮腺筋症の影響は?」