帝王切開時の卵管摘出と卵管結紮のリスクの違いは? | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

本論文は、帝王切開時の卵管摘出と卵管結紮のリスクの違いについて後方視的に検討したものです。

 

Fertil Steril 2024; 121: 531(カナダ)doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.11.031

Fertil Steril 2024; 121: 446(米国) doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.01.001

要約:カナダ、ブリティッシュコロンビア州で帝王切開を行った18,184名の女性を対象に、帝王切開時に卵管摘出を行なった8,440名と卵管結紮を行なった9,744名の術後合併症などについて後方視的に検討しました。結果は下記の通り(有意差のみられた項目を赤字表示)。

 

卵管結紮群と比較した卵管摘出群の修正オッズ比(95%信頼区間)

周術期合併症         0.77(0.61~0.99) 

再入院            0.86(0.70~1.06)

再診察            0.79(0.68~0.92)

感染             1.17(0.76~1.85)

抗生剤使用          1.08(0.98~1.20)

NSAIDS鎮痛剤処方      1.18(1.07~1.28)

麻薬性鎮痛剤処方       1.23%(1.12~1.35)

 

解説:卵巣癌は、癌による死亡者数が全体で第5位、婦人科では第1位の疾患です。米国では2022年に19,880名の新規卵巣癌患者が登録され、12,810名が死亡しました。一般集団の1.4%にみられる比較的稀な疾患ですが、5年生存率は低く、有効なスクリーニング法が確立されていませんので、予防策が重要になります。卵巣癌の中で最も多い漿液性腺癌は、卵巣癌の70%、卵巣癌死亡の90%を占め、その発生源は卵巣ではなく卵管であることが判明しています。米国産婦人科学会とカナダ産婦人科学会は、卵巣癌予防として卵管摘出術を推奨しています。また、米国やカナダでは、帝王切開時に卵管結紮による避妊手術を受ける方が多くおられます。本論文はこのような背景の元に行われた研究で、帝王切開時の卵管摘出と卵管結紮のリスクの違いについて後方視的に検討したところ、帝王切開時の卵管摘出が避妊のみならず卵巣癌リスク低下をもたらす安全な方法であることを示しています。

 

コメントでは、2011年以降、世界中の多くの学会で卵巣癌予防として卵管切除術を推奨しているため、卵管切除術が急速に広まっているとしながらも、卵巣損傷、卵巣予備能低下、早発閉経のリスクが完全には否定できないとしています。卵巣癌リスクは、一般集団で1.4%、BRCA1変異で44~49%、BRCA2変異で17~21%であり、真の対象患者の選定が重要であるとしています。