Q&A3985 NIPT検査とヘパリンについて  | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 2022.2.4「Q&A3197 私は出産可能なのでしょうか?」、2023.3.26「Q&A3612 流産3回(うち染色体異常2回)」、2023.10.8「Q&A3808 3612の続き」にて質問にご回答いただき、ありがとうございました。

夫35歳、妻34歳
2021年〜2022年に3回流産の既往あり(1回目は流産胎児絨毛染色体検査せず、2回目と3回目は染色体異常)
2023年12月 初期胚2個(Day3 7G3 と Day3 8G3/採卵時年齢31歳)を移植
2024年1月 HCG陽性→現在妊娠13週
 不育症検査において、抗CL−IgG、プロテインS活性でひっかかり、ヘパリン注射、バイアスピリン服用中
 11週3日のリプロでの検診にて、「ヘパリンは16週まで、バイアスピリンは28週まで」と指示あり

松林先生にアドバイスいただいたどおりに移植を行い、現在無事13週を迎えました。ありがとうございました。先日産院にてNIPT検査を希望し事前説明を受けた際「ヘパリンが検査結果に影響し判定保留となる可能性がある」と説明がありましたが、判定保留になることは稀なのでおそらく大丈夫だろうとのことで、ヘパリン注射後4時間ほどでしたが、説明後にそのまま採血検査を行いました。帰宅してからネットで調べたところ、採血の12時間前(48時間前という記事もありました)からヘパリンは中止するべき、ヘパリンはDNAを断片化する等の記載を見つけ、今回、ヘパリン注射後4時間で採血したことが、検査結果を不確実なものにするのではと不安に思っています。

①ヘパリンの使用が「判定保留」の原因となることは、ネット上の記事で理解したのですが、ヘパリンの使用が「偽陽性」又は「偽陰性」の原因になることはあるのでしょうか。
②結果が陰性である場合の陰性的中率は、ヘパリンの使用・未使用で変わりますか。
③上述のとおり、ヘパリン注射後4時間ほどで採血を行いましたが、ヘパリン注射後時間を空けなかったことで、偽陰性・偽陽性が出やすくなる等、結果の正確性が下がることはあるのでしょうか。

 

A 最新の論文を調べてみました。

J Reprod Infertil 2023; 24: 219(イラン)doi: 10.18502/jri.v24i4.14149

要約:母体の血液中に存在する胎児DNA(cell-free fetal DNA = cffDNA)がNIPTに用いられます。cffDNAに影響を与える要因を解明するために、2022年2月までに報告された39論文を対象に系統的レビューを行いました。結果は下記の通り。

 

 cffDNAを減少させるもの:加齢、BMI増加、LDL増加、コレステロール増加、中性脂肪増加、メトホルミン、ヘパリン、エノキサパリン、ヘモグロビン症、運動、南アジア人、東アジア人

 cffDNAを増加させるもの:在胎週数、hCG増加、PAPP-A増加、高地居住、多胎妊娠

 

cffDNAの増減は、論文ごとに異なる結果を示しています。これは、cffDNAの増減には複数の要因が関与しており、人種による違いが大きいためと考えます。 したがって、NIPTあくまでもスクリーニング検査(=ふるい分け)であるという認識を持つことが重要です。

 

①②ヘパリンによりcffDNAが減少すると、判定保留(結果が出せない)ことはあり得るでしょう。「偽陽性」「偽陰性」「陰性的中率」「陽性的中率」とは無関係だと思います。

③単にcffDNAが減少するだけなので、結果が出ていれば正確性は変わらないと思います。

 

なお、このQ&Aは、約3週間前の質問にお答えしております。