本論文は、初期胚凍結と胚盤胞凍結の優劣に関するランダム化試験です。
Hum Reprod 2024; 39: 62(ベルギー)doi: 10.1093/humrep/dead222
要約:2018〜2020年に採卵する38歳未満の女性を対象に、新鮮初期胚移植(3日目)後の余剰胚を3日目(80名)または5〜6日目(81名)に凍結する2群にランダムに割り付け、累積妊娠率を前方視的に検討しました。2021年12月までに、3日目凍結群は77名、累積233件の胚移植(新鮮96件、凍結137件)を、5〜6日日目群は77名、累積201件の胚移植(新鮮88件、凍結113件)を行いました。なお、検出力の計算により各群の患者数は75名で十分であることが判明したため、この症例数になっています。結果は下記の通り、全ての項目で有意差を認めませんでした。
累積妊娠率(心拍確認まで) 累積妊娠継続率(妊娠12週以降)
胚移植 初期胚凍結 胚盤胞凍結 初期胚凍結 胚盤胞凍結
1回目 24.68% 22.08% 22.08% 22.08%
2回目 35.26% 35.06% 33.97% 33.77%
3回目 39.53% 48.05% 38.25% 45.45%
4回目 50.24% 56.33% 45.89% 53.68%
5回目 55.16% 57.71% 50.78% 55.05%
6回目 60.08% 57.71% 55.68% 56.42%
7回目 61.72% 57.71% 55.68% 56.42%
8回目 61.72% 59.09% 57.31% 57.79%
解説:着床の可能性が最も高い胚を選択することは、ART治療(体外受精、顕微授精)において極めて重要です。しかし、根本的な問題として、初期胚と胚盤胞の優劣については未だに議論が続いています。胚盤胞移植が盛んになった背景には、最も生存可能な胚のみが胚盤胞に発育すると考えられていたこと、胚盤胞移植では子宮と胚の同期が起こりやすいと考えられていたことがありました(現在では両者とも否定されています)。しかし、胚盤胞を目指すと胚発生不良のため胚移植ができないケースが生じます。また、すべての胚が胚盤胞まで発育するわけではありません。これまでに発表されたランダム化試験に基づくメタアナリシスやCochraneレビューは、全て初期胚移植よりも胚盤胞移植が有利であることを示しています。また、胚盤胞移植の方が出産までの時間が短縮されると報告されています。一方で、初期胚移植をすれば、妊娠するチャンスが増えますが、移植回数が増えるため金銭的あるいは時間的な負担が増えます。本論文は、このような背景のもとに行われた検討であり、移植1〜4回目頃までは胚盤胞移植が有利ですが、移植5回目あたりから優劣がつかなくなり初期胚と胚盤胞が同等になることを示しています。つまり、治療が長期化すると初期胚でも良いことになります。なお、本論文では、単一胚移植と2個胚移植がそれぞれ含まれ、それぞれ回数が異なっているので、示された確率には若干の誤差があることをご承知おきください。