本論文は、婦人科領域の遺伝的癌家系の治療戦略に関する総説です。
Fertil Steril 2019; 112: 1034(米国)doi: 10.1016/j.fertnstert.2019.07.1349
要約:遺伝的癌家系の診療に携わる者は、生殖医療と生殖内分泌に関する幅広い知識を持つ必要があります。まず、現在明らかにされている産婦人科領域の癌遺伝子には下記のものがあります。
遺伝子 卵巣癌リスク 乳癌リスク 子宮体癌リスク
ATM ー + ー
BRCA1 + + ー
BRCA2 + + ー
BRIP1 + ー ー
CDH1 ー + ー
CHEK2 ー + ー
Lynch Synd. + ? +
PALB2 ー + ー
PTEN ー + +
STK11 + + ー
RAD51C + ー ー
RAD51D + ー ー
TP53 ー + ー
癌発症リスクを低下させるための手術としては、卵巣癌リスクに対して卵巣卵管摘出術あるいは卵管摘出術があります。子宮体癌リスクに対しては、卵巣卵管摘出術+子宮摘出術があります。妊娠前のPGT-M(PGD)あるいは、妊娠中の遺伝子検査は、子孫への遺伝を防ぐという意味で重要です。また、摘出術後は、ホルモン療法も考慮します。
解説:遺伝的癌家系が関与するのは、全体の癌の5〜10%程度に過ぎません。最も有名なのは、乳癌のBRCA1、BRCA2遺伝子ですが、それ以外にも婦人科領域の遺伝的癌家系としては上述の遺伝子の関与が明らかにされています。海外の医療現場ではこのような遺伝子を持った受精卵の診断も可能になっています。しかし、一つの遺伝子を検査する為に数万円を要するようですので、今後明らかにされる遺伝子全てを検査するとしたら、とてつもない費用になります。従って、現実的には遺伝的癌家系として保有する遺伝子の診断のみにならざるを得ないと思います。
PGT(preimplantation genetic testing)に関する最新の用語(略語)
PGT-A(aneuploidy)異数性異常=かつてのPGS(screening)
PGT-M(monogenic disorder)単一遺伝病=かつてのPGD(diseases)
PGT-SR(structural rearrangements)転座