Q&A1893 夫がカルタゲナー症候群です | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ
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松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。

Q 夫がカルタゲナー症候群です。射出精子の運動率は0%で、石川先生にTESEを行なって頂き凍結精子がたくさん出来ました。その後3度の採卵を行いましたが全て不成功に終わっています。妻33歳、AMH 1.2、ビタミンD、銅亜鉛数値クリア、不育症対策済みです。
採卵①成熟卵6個、正常受精4個、11分割の初期胚1個→hCG 17
採卵②成熟卵3個、正常受精3個、12分割の初期胚1個と0PN5日目胚盤胞3AAを2段階移植→hCG 25
採卵③成熟卵7個、正常受精7個、6日目胚盤胞4BC一個でSEET法→陰性
余剰胚なし。培養土さん達の技術のおかげで受精率はとても良いのに、3日目あたりから成長が止まり凍結までにほぼ全滅してしまいます。やはり不動精子を用いての顕微授精では妊娠までたどり着くのは難しいのでしょうか。松林先生の患者様で不動精子症またはカルタゲナー症候群の方から出産された方はいらっしゃいますか。卵をたくさん取ってとにかく良い精子と巡り合うまで受精させていくしかないのでしょうか。転院先では一度射出精子を用いてみましょうと言われていますが、結果が期待できるのか半信半疑の状態です。

 

A 1933年に内臓逆位、慢性副鼻腔炎、気管支拡張症を3徴とするKartagener症候群が報告され、1975年にKartagener 症候群の患者の精子鞭毛の超微構造上 の異常が示されました。その後全身の線毛の超微構造上の異常による線毛の不動が原因であるとされ、1977年に原発性線毛機能不全症候群(immotile cilia syndrome)という名称になりました。しかし、線毛の不動は絶対的な要因ではなく、異常な線毛運動のために有効な粘液線毛輸送機構が欠如しているとされ、原発性線毛運動不全症(Primary ciliary dyskinesia:PCD)という名称に現在は変更されています。PCD は10000人に1人の頻度で認められ、完全な不動線毛、微弱な線毛運動、協調性のない線毛運動を呈する方などその程度はさまざまです。気道系の防御機構が働かないため、幼小児期より慢性の気道感染症を生じ、線毛機能異常により胎児の発生段階で約半数で内臓逆位を呈するとされています。卵管と気道の他には、脳室系の上皮細胞である上衣細胞にも繊毛が存在し、脳脊髄液流の発生と物質運搬にも関与しています。また、PCDの男性は不動精子となるため、男性不妊にも関係しています。精子が全く動かないため、通常の受精(タイミング、人工授精、体外受精)ができませんが、精子の能力は正常ですので、顕微授精により受精卵をつくり、赤ちゃんを授かることが可能で、当院でも複数の方で赤ちゃんが誕生しています。

 

もし、慢性子宮内膜炎検査と子宮収縮検査が未実施でしたら、ぜひこの二つの検査も追加してみることをお勧めします。この二つの検査は着床障害のみならず弱いhCG反応しか出ない方にも見つかることがあります。また、胚盤胞になりにくい場合には、無理して胚盤胞を目指さず、初期胚の複数移植で勝負してみる方が良い場合が少なくありません。

 

下記の記事を参照してください。

2015.12.6「卵管の繊毛運動について

2013.10.5「子宮外妊娠になりやすいヒトは鼻を見ればわかる?」

 

なお、このQ&Aは、約4ヶ月前の質問にお答えしております。