松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。


テーマ:
一般常識の誤り その3
「精子は、ためた方がよい」は正しくありません。
WHOのガイドラインでは精液検査に際しての禁欲期間を2~7日にするという記載をしています。このため、一般には数日の禁欲期間(精子をためる期間)を設けて、精液を提出していただくように指導していることが多いようです。しかし、「妊娠するために最適な精子が得られるには禁欲期間が何日か」については、検査とは別問題になります。下記の論文は、精子の数が少ない男性は禁欲期間を1日(前日に射精)とし、精子の状態のよい男性は最大10日まで(なるべく7日以内)の禁欲期間とすべきであると結論しています。

Fertil Steril 2005; 83: 1680
要約:のべ9489件の精液検査データのうち、精子の数が少ない(乏精子症、精子数<2000万/mL)3506検体と正常精子数の5983検体に分けて各項目を比較しました。精子の数が少ない検体では、禁欲期間を1日とした場合に最も精子運動率が良く、禁欲期間を0~2日とした場合に正常形態精子が最も多くなりました。一方、正常精子数の検体では、禁欲期間が11日以上で、精子運動率と正常形態精子がともに低下しました。

解説:本論文は、私の知る限り禁欲期間に関して精液サンプル数の最も多い研究です。人工授精や体外受精•顕微授精などの際には、目的は妊娠することですから、いかに良い精子を得るかがカギになってきます。精子をためることにより精子の状態が悪化するのは、射精しないと新しく精子を作るスペースができないことと、古い精子から活性酸素が産生されることにより精子および精子形成細胞にダメージ(DNA損傷)を与えることが要因と考えられます。活性酸素は、白血球からも放出されますので、精巣の炎症も一因となります。また、精子の状態が良い場合と悪い場合で望ましい禁欲期間が異なる理由は、精子の数が少ない場合には、正常な場合と比べ精巣上体を通過するのに約3倍の時間がかかるためと考えられます。精巣上体を通過する際に精子はダメージ(DNA損傷)を受けることが知られています。毎日射精するのは難しいかもしれませんが、2日に1回は射精を心がけて欲しいと思います。
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