松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

生殖医療に関する正しい知識を提供します。主に英語の論文をわかりやすく日本語で紹介します。


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一般常識の誤り その2
「排卵後の性交は意味がない」は正しくありません。
確かに精子は必要ありませんが、精液への暴露により免疫寛容となり着床が促進される可能性が指摘されています。
そのキーポイントは、調節性T細胞 (Treg = CD4+CD25+Foxp3 T細胞)です。調節性T細胞は、移植や妊娠などの際に、臓器や胎児が拒絶されないために(免疫寛容)働いている免疫細胞であり、着床期に子宮内膜で増加します。マウスでは性交をきっかけに排卵が起こることが知られていますが、同時に子宮内膜で調節性T細胞が増え、妊娠の準備をします。このスイッチとなるのが精液への暴露なのです。ヒトでは排卵から着床まで1週間もあります。排卵期に限らずいつでも性交を行っているカップルで妊娠率が高いという報告もあります。人工授精や体外受精の周期にも性交を行う意義はあると考えています。

その根拠となる論文を示します。

Science 1995; 270: 630
系統が異なるオスマウスの胎児を妊娠している時、そのオスマウス系統の癌細胞が拒絶されないが、分娩後にただちに拒絶される→妊娠中にのみ特有の免疫寛容がある 

Mol Hum Reprod 2006; 12: 301
子供をもつ女性(12名)に比べ不妊症女性(10名)の子宮内膜では、調節性T細胞を誘導するFoxp3遺伝子(mRNA)の発現が半分であった→調節性T細胞が妊娠成立のキーポイント 

Biol Reprod 2009; 80: 1036
マウスでは癌細胞への免疫寛容が性交によってもたらされ、精液の分泌腺を除去するとこの免疫寛容が低下する。調節性T細胞は性交後に増加する。→精液および精子が調節性T細胞を増加させ免疫寛容に導く 

Hum Reprod Update 2009; 15: 517 (Review)
マウスでは調節性T細胞が胎児の免疫寛容に必須であり、着床前後に関与する。女性では妊娠初期の子宮内膜および血液に調節性T細胞が出現し、不十分な調節性T細胞は不妊症、流産、妊娠高血圧(中毒症)をきたす→調節性T細胞が妊娠中の免疫寛容を導く 

J Reprod Immunol. 2010; 85:121
マウスでは調節性T細胞が着床期に必要であるが、妊娠後期にはあまり関与しない→調節性T細胞が妊娠初期の免疫寛容を導く
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