ミルトン・エリクソンがパパだったら、きっと娘は一度はこんな質問をしたくなるのでしょう。
奇跡を次々と起こす魔術師のように尊敬されているパパの娘としては、「そんなにやり手なら、私の体重を減らしてみてよ」と言いたくなる瞬間が来るのでしょう。
三〇代前半のころ、「パパ、そんなにやり手の精神科医なら、体重を減らせるダイエット法を教えてよ」と、新聞を読んでいる父に言ったことがあります。父はゆっくりと新聞を下げ、私の目をジッと見据えて、「本当に、ダイエットしたいのか？」と尋ねました。
私は「いえ、パパ」と答え、彼は「それならいい」と言って、新聞に戻りました。私は初めて、多くの患者が感じていたことを感じました。父は本当に恐ろしい人でした。後で、父になぜあんなふうに言ったのかと聞いたところ、父は本気でないとわかっていたからと、言っていました。でも私が本気だったときは、いつでも父は助けてくれました。（p.53『ミルトン・エリクソン/アメリカン・ヒーロー』）（太字は原文ママ）
とは言え、これは10代（ティーンエージャー）ではなく、30代前半の頃の話だそうですが。
エリクソンの娘が、戯（たわむ）れに、
パパ、そんなにやり手の精神科医なら、体重を減らせるダイエット法を教えてよ」と、新聞を読んでいる父に言って、
そして父エリクソンは娘に、ヒーラーとしてきちんと応答したという話です。
この話は以前も紹介しています。
c.f.父は直ちに、「思う、と言っているだけなら、彼女は実際にはそうしないだろう」と答えました。 2022年03月14日
ここでのポイントもシンプルでした。
父は直ちに、「思う、と言っているだけなら、彼女は実際にはそうしないだろう」と答えました。
「思う」じゃダメなんです。
（引用開始）
かつて、父が休んでいたベッドのそばに座って父と話したことがあります。私の長男はそのときまだ赤ん坊で、私には同じ年齢の息子を持つ女友達がいました。母親になったばかりの人がよくやるように、友人と私は息子たちを見ながら「私たちこんなに子どもを愛しているなんて、素敵よね」とおしゃべりしたのですが、私はそのときのことを父に話したのです。私は友達に「もしそれが息子に幸せで良い人生を与えることになるなら、列車の前にだって身を投げ出すわ」とも言い、すると彼女は「私もそう思うわ、そうすると思う」と答えました。それから私たちはまたほかの会話を続けました。でも私には何かが引っかかっていました。それが何か私にはわからなかったので、父に「どう思う？」と尋ねたのです。父は直ちに、「思う、と言っているだけなら、彼女は実際にはそうしないだろう」と答えました。そして「どうしてかわからなくても、お前にはそれがわかってしまったのだよ」と言ったのです。（引用終了）（p.46『ミルトン・エリクソン/アメリカン・ヒーロー』）
上記の引用に即するならば、本気か否かです。
エリクソンの手法にせよ（それを催眠と呼ぶのには違和感があります）、気功のような内部表現書き換えの技法にせよ、そのコアにあるのは、クライアントの本気度合いです。それをGoalと呼んだり、Want toと呼んだり、何と呼ぶにせよ、本気なのか、本当にしたいのかが問われるのです。
逆に本気であり、本当に望んでいるのであれば、リソースのことなど考えなくて良い（byルー・タイス）、リソースは十分に持っている（byミルトン・エリクソン）なのです。いずれにせよ、叶えられるのです。
c.f.多くの人が、ビジョンやゴールを設定するときには必要なリソースがどこにあるかを知っておこうとします（ルー・タイス）2021年05月31日
とすれば、僕らが自分に問い、同様にクライアントに問うべきことは、本気で成し遂げたいことは何かということだけです。
それが明確に見つかれば、世界はその本気に反応して、ゆっくりと変化していきます。
とここで終わらせても良いのですが、蛇足の蛇足を少し。
しばしばセミナーやセッションで引用する聖書の一節が、
あなたがたの神、主を試みてはならない（申命記6:16）（ルカ4:12）
です。
これはもともとは旧約聖書の申命記の一節ですが、イエスがそれを引用して悪魔からの誘惑に抗しています。
イエスは答えて言われた、「『主なるあなたの神を試みてはならない』と言われている」。
（ルカ4:12）
神を試みてはならないのと同様に、気功においても、試みてはならないといつも思います。
いや、気功の実験をするのは良いですし、そのために試すのは有りです。
小さな系で試して、成功体験を積み重ねよとはよく言うアドバイスです。
（とは言え、ここでもたしかに気功の実験は大事ですが、それでも本質的には「試みてはならない」とは思います。そういうマインドセットならば、うまくいきません）
そういう意味ではなく、ゴール設定やゴール更新などの非常に重要なシーンにおいて、気功というシステムを試してはならないのです。
やるならば本気でやるということです。
結果の全てを受け入れるつもりで、本気でやることです。
ミルトン・エリクソンはこの「本気」を重視しており、そのための踏み絵をいくつも用意していました。これはとても重要だと思います。
奇跡を起こすのはクライアント自身なのです。
ヒーラーはその手助けをするだけです。
エリクソンは自分の治療についてこう語っています。
（このセリフを一番最初に紹介しようと思ったのですが、このセリフがおそらくは一番難解なセリフです）
「治療をするのは患者です。セラピストはただ気候や天候を提供する、それだけです。すべての仕事をしなければならないのは患者なのです。」（同p.19）
この引用の主題はシンプルです。
「すべての仕事をしなければならないのは患者」ということです。
ただし、ここで言うセラピストの仕事は実に難解です。
「ただ気候や天候を提供する」、、、、ここの読解が難解で、、、謎を謎を呼びますが、その話はまた今度にでも。
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