「無限に重なった亀の塔という宇宙像をたいていの人は、ひどく滑稽に感じるだろう(ホーキング)」 | 気功師から見たバレエとヒーリングのコツ~「まといのば」ブログ

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映画の中でホーキングが車いすで1文字1文字書いているのが邦題「ホーキング 宇宙を語る」の"A BRIEF HISTORY OF TIME"です。

素晴らしい著作です。これほど簡潔に宇宙論がまとまっているのも珍しいと思いますが、ただあまりに簡潔すぎて行間を相当に広げて読まないと読めません。要約の要約のような濃密さです。

今週末に「寺子屋集中講座・現代物理学の風景」を開催しますが、その予習としても復習としても最適な一冊かと思います。


ちなみにその序文はカール・セーガンが書いています(もはや、アップルパイしか思い浮かびませんが)(この本は当時の奥さんであるジェーンさんに捧げられています。そのジェーンさんの伝記本が今回の映画の原作です)


*ちなみにこの映画では、ホーキングご本人も声の出演をしていますw
もともとは映画製作陣がつくったコンピュータ音声を使う予定でしたが、撮影見学に来たホーキングに声(電子音声)を使う許可を与えたそうです。
映画の試写を見て、ジェーンもホーキングも喜んだというのが本当に良いことだなあと思います。
最近公開された実話ものはどれもすごいものでした。具体的には「フォック・スキャッチャー」、「アメリカンスナイパー」、「博士と彼女のセオリー」ですが、関係者も見て、そのリアルさに感動したというのは、本当にすごいことです。

そしていつもながら驚かされるのは俳優の力です(ちなみにシエナ・ミラーは夫を殺される未亡人の役をFoxCatcherでもアメリカンスナイパーでも演じます)。
未亡人と言えば、イミテーション・ゲームでチューリングのフィアンセを演じるのはキーラ・ナイトレイですが、彼女は「危険なメソッド」でユングのクライアントであり1人目の愛人を演じます(ユングには2人の愛人がいました)。そのキーラ・ナイトレイが始めて歌うという映画「はじまりのうた」も観てきました。ほのぼのとした映画らしい映画です。全米公開時はわずか5館だけ、しかし口コミが広がりついには1300館へと到達するという映画の中身さながらです。

*パイレーツ・オブ・カビリアンのときのキーラ・ナイトレイ


そのホーキングの「A BRIEF HISTORY OF TIME」はこんな出だしから始まります。
(映画ではタイトルにBriefを付け足していたのがなんとも可愛らしかったです)

(引用開始)
 有名な科学者(バートランド・ラッセルだという人もいる)があるとき、天文学について公開講演を行なった。彼は、地球がどのように太陽を回っているのか、そしてその太陽が星の巨大な集団であるわが銀河の中心をどのように回っているのかを説明した。講演が終わると、一番うしろの席に坐っていた小柄な老婦人が立ち上がってこう言った。
「あなたのおっしゃることは、みんな馬鹿げてますわ。本当は世界は平たい板みたいなもので、大きな亀の背中に乗っているんですもの」
科学者は見くだすような薄笑いを浮かべて、おもむろにたずね返した。
「では、その亀は何の上に乗っているんでしょうか?」
老婦人は平然と答えた。
「まあ、お若いのにお頭(つむ)のおよろしいこと。でも、よろしくって、下の方はどこまでいっても、ずっと亀が重なっていますの!」

(引用終了)



とは言え、地球の形がどうなっているかについてはホーキング博士は確固たる意見があるようですw

(引用開始)
地球の表面は大きさこそ有限であるが、境界あるいは縁をもたない。夕陽に向かって漕ぎだしていっても、縁から落ちたり、特異点にはまりこんだりする心配はない(なぜ私がそんなことを知っているかといえば、世界を一周したことがあるからだ!)。(引用終了)(ホーキング p.195)

まあ、それはさておきホーキングの見事な筆致が全編にわたって冴え渡ります。

映画の中でも、コーヒーにミルクを落としてエントロピーが拡大する様が逆回転していました。同様にペンローズの重力崩壊(ブラックホールの生成)を逆回しして、ビッグバンにすることで宇宙の始まりを示します。しかし、逆にそのことで一般相対性理論を「不完全な理論」として退けます。なぜなら宇宙のはじまりは特異点から始まりますが、特異点においては物理理論が破綻します。ということは、宇宙がどう始まったかを説明できません。説明できない以上は、「一般相対性理論はたんに一つの部分理論にすぎない」(p.86)のです。

相対論がブラックホールの存在を予言し(実際に観測され)、ブラックホールの存在が(逆回しすることで)ビッグバンを示し、ハッブルによる観測結果とも整合するためにビッグバンが宇宙の始まりであることがわかってくると、そのビッグバンの存在そのものが「相対論」を部分理論に貶めるというタイムトラベルの親殺しのような話です。相対論から始まり、相対論を否定します。
(タイムトラベルと言えば、ハインラインの「プリデスティネーション」もすごかったです。ゲーデル解を思わせるような、原作のハインラインの「輪廻の蛇」そのものでした。この世界観は素晴らしいので、できれば原作を読まずに映画を観たほうがいいように思います。「宇宙は完全に自己完結しており、その外部のなにものにも影響されない」(p.195)というホーキングの言葉を思わせます。これは無境界仮説の説明であって、映画「プリデスティネーション」の解説ではないのですがw



ちなみに「プリデスティネーション」の主演のイーサン・ホークはリアルタイムトラベルな作品である「6歳の僕が大人になるまで」でもお父さん役として出ています。これはリアルに12年かけて撮影されました。本当に6歳の僕が18歳になるまでが描かれています。




映画の話しばかりで恐縮ですが、映画「インターステラー」でおなじみのキップ・ソーンとホーキングの有名な賭けについてもホーキングの本に書いてあります。

(引用開始)
私はカリフォルニア工科大学のキップ・ソーンと賭けをし、白鳥座X-1にブラックホールが含まれていないほうに賭けた! これは私流の保険のかけ方なのである。私はブラックホールについてずいぶん研究してきたし、もしブラックホールが存在しないことがわかれば、私のやってきたことは全部むだになってしまう。しかし、たとえそうなっても、賭けに勝ち、〈プライベート・アイ〉誌を四年分儲けたという慰めが私には残る。逆にもしブラックホールが存在すれば、キップは〈ペントハウス〉誌を一年分手にいれる。(引用終了)(p.142)



ホーキングらしいユーモアです。
普通ならば賭けるのであれば、自分が正しいと信じていることに賭けそうなものですが、ホーキング博士は違います。人生を賭けてきた方とは逆にギャンブルするということです。まさに保険です(保険は自分がケガをしたり、不利益が起こることに対して掛け金を払います)。
実際にペントハウスを送っています。


とは言え、ホーキング博士の問題意識は冷徹です。
大きな亀の上に乗っている地球という宇宙観に対して、なぜそれを笑えるのかと切り込みます。

無限に重なった亀の塔という宇宙像をたいていの人は、ひどく滑稽に感じるだろう。でも、なぜ私たちのほうが老婦人よりも宇宙をよく知っていると言えるのか?」(p.18)

その直後にホーキングはアリストテレスがすでに地球が球であることを示したと言います。
すなわち、アリストテレスが著書「天体論」の中で地球が平らな板ではなくまるい球である論拠を紀元前340年にすでに挙げています。


映画を観たあとにホーキングのこの本を読むとまた味わいが違うと思います。

ちなみに、イミテーション・ゲームを観る前は(観たあとにも)サイモン・シンの「暗号解読」は役に立ちます(上巻の後半)。映画の中ではボンブのカラクリについてはほのめかされるだけですが、著作の中では正確に描かれています。



絡みあう蛇のように(糾える縄のように)素晴らしい映画と素晴らしい学びを絡ませていくと、強い印象とともに正確に素早く深く学ぶことができるように思います。



【書籍・映画紹介】
まずはキーラ・ナイトレイの「はじまりのうた」!!



フォックス・キャッチャー。面白かったです。リアルです。


クリント・イーストウッドの傑作です。


「博士と彼女のセオリー」でホーキングが書いていた書籍がこちら(^^)
ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで (ハヤカワ文庫NF)/早川書房

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「イミテーション・ゲーム」の原作はこちら!
エニグマ アラン・チューリング伝 上/勁草書房

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イミテーション・ゲームをより楽しみたいときはこちらのサイモン・シンの「暗号解読」を!詳しく分かります。上巻のラストです。
暗号解読〈上〉 (新潮文庫)/新潮社

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キーラ・ナイトレイがザビーナ・シュピールラインを熱演します。
危険なメソッド [DVD]/TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)

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キーラ・ナイトレイが演じたザビーナ・シュピールラインについてはこちらを。
ザビーナ・シュピールラインの悲劇 ユングとフロイト、スターリンとヒトラーのはざまで/岩波書店

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イーサン・ホークの「プリデスティネーション」の原作を含む短篇集です。
輪廻の蛇 (ハヤカワ文庫SF)/早川書房

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「博士と彼女のセオリー」の原作である「Travelling to Infinity: My Life with Stephen」です!
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