母となったその日から
夜も寝ずに乳をあたえ
愛しい温もりを抱き締める

幼い我が子の為に
知恵を絞り食事を作る

熱のある日は背に負って
医者の元に駆けつける

学校に入れば
先生や友達を気にかける
勉強はついていけるか
クラスで上手くやっていけるかを
知ろうとする

我が子の機嫌が悪い日は
オロオロと顔色を伺い
笑顔を取り戻そうとする

スポーツを始めれば
自分の休みも返上して
弁当を作り
早朝から送り迎えをする

彼女や彼氏が出来れば
良い人でありますようにと願い
はらはらと見守る

もしも、道を踏み外す事あれば
背を丸め地面に手をつき
「許して下さい、私が悪いのです」
と世間に詫びて
我が子よ、どうか立ち直って!
と懇願する

やがて大人になり
家を出て行けば
いつ帰って来るのか解らなくとも
清潔な寝具を整え待ち続ける

束の間の帰省を喜び
好きな料理を並べ
あれこれと話しては
今度はいつ帰れるの?
と、遠慮がちに尋ねる

じゃあまたね!
と手を振る我が子に
もっと沢山帰っておいで!
と心で叫ぶ

我が子が家庭を持てば
孫に幼い頃の我が子を重ね
時折の来訪を待ちわびて
色々なオモチャを用意し
ごちそうをこしらえて
幸せな時を重ねる

そして年老い
彼方へと還る時
我が子に手を握られながら
母になれた喜びと感謝と
さよならを告げる

それが普通の母の
平凡な幸せ
それがありふれた
母子の景色


だけど
思いがけずも
我が子を先に送った母は
もうこの世で二度と逢えぬ
愛しい子のために
写真の前に季節の花を飾り
好きだったおやつを供え
毎日涙を流しため息をつく

それが唯一出来る事

世界中を敵に回しても
護ろうと誓った我が子

この身に引き換えて
護りたかった
かけがえのない命

「死」という魔物からは
護る事が出来なかった悔しさ


平凡な幸せも
ありふれた景色も
もう二度と見る事は出来ない

死んだ子の歳を数え
共に生きた日々を懐かしむ

ただ
生きてさえいてくれれば
それで良かったのに
と、叫び続ける

再会はいつになるか?
神に問いかけ
早く連れて行って!
と、願う

いつしか時と共に
我が子の声や
駆け寄る姿や
寂しく振り向いた面差しが
だんだんぼんやりとなってくる

そんな己の罪深さを嘆きながら
暗い夜には
夢でもいいから逢いたい!
と、心から祈る

狂おしい悲しみも
腹立たしい寂しさも
果てしない虚しさも
全て自分のせいなのか?と
自責に悩み、悔恨に泣き叫ぶ


でも
ある日
ふと気づく

母の愛は慈愛

己を棄てて愛し抜く強い愛
我が子を慈しみ
深く深く愛おしむ
慈愛

見えなくなっても
触れる事が出来なくとも
帰省する事がなくても
孫を持てる事が出来なくても
母の愛はまぎれもない
永遠の慈愛

空を仰ぎ
風を感じ
流れ行く川面を眺め
遠い我が子を偲ぶ

咲く花に、飛ぶ鳥に、舞う蝶に
我が子を探し呼びかける

よその母子よりも少ない
我が子との思い出を
寄せ集め、懐かしみ
ぎゅっと抱き締める

誰よりも愛しているよ!
必ず再会するからね!
固く誓う

我が子が生きていようが
たとえ死んでいようが
愛しい我が子への慈愛は
枯れ果てる事はない
どんな定めにも負ける事はない

Nちゃん
母の慈愛は永遠です

貴女が見えなくとも
貴女に触れる事が出来なくとも
貴女と共に生きています

永く続く
この孤独と暗闇の中から
遠くの空に見える
ひとすじの光に手を差しのべて
今日も貴女に呼び掛けます

命をかけて
心の底から
貴女を愛しています!」