Périgueux ~かたわれの変化と子供たち、記者会見とどんどろさん | マチルダのだいたいご馳走

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村田さんのショウが始まる日の朝、楽屋やフェスティバルカフェのある場所に行くと、何やら記者会見のようなものが行われていた。
手話通訳の人もいてだいぶ本格的だが、もちろん私たちは何について話しているのかは全くわからない。
記者会見は数時間に渡り行われ、多くの人たちが熱心に話に聞き入っていた。
ここはもしかしたらアカデミックなフェスティバルなのかもしれない。


(photo by 鈴木さや香)

一回目のショウの場所は歴史美術館の中庭。
mimOFFは基本的に毎回ショウの場所が変わる。
前日にスタッフさんがいくつかのポイントの下見に連れて行ってくれたが、この美術館は休みだったため見ることができなかった。
ショウの30分前にスタッフさんと待ち合わせをし向かおうとしていると、OFF責任者のドミニクから電話。
「バーバラ、いまどこにいるのかしら?みんな待ってるわよ~」とのこと。
30分前に待ち合わせをしていますと伝えると、「ああそうなのね。でもみんな待ってるわ~」と言う。
みんなって誰だろうと疑問を抱きつつ会場に向かうと、中庭にはぎっしりとお客さんが座り込んでいた。
一瞬時間を間違えたのかと思うほどの待機人数。
人々は中庭の真ん中に何となく小さな円形スペースを空けて待ってくれていたのだが、どう考えてもそれは演技スペースとして狭すぎる。
慌てて場所を決めて移動してもらうも、あまりに人が多すぎて後ろに回り込んでしまうことを避けられない。
「このフェスは、どうしてかは分からないけどお客さんがすごく前から待つのよ~。みんなとってもびっくりするわ。」とドミニク。
ええ、ええ、大層驚きましたとも。



(photo by 鈴木さや香)

あまりに人が集まりすぎたため、途中で満員打ち止めにしたのだと後からドミニクに聞いた。
驚愕のもと始まったかたわれ、しかも足元が砂利という過酷極まりない状況だったが、どうにか無事に終わる。
村田さんは砂利が裸足にめり込んですっごく痛かったらしい。
私はこんなに多くの人が集まるようだと、持参のアンプが小さく心許な過ぎて不安に感じる。

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一回目を終えて楽屋に戻ると、ルイとタマラが到着していた。
タマラの出番は次の日から。
「人いっぱいでびっくりしたよ!ムーチョ(スペイン語でいっぱいの意)みなさん(二人はこれを英語でpeopleの意として使っている)だよ!!」と伝えると、うひゃあと喜んでいる。
彼らは前のフェスがあったスイスから、車で二日間かけてペリグーに辿り着いたところらしい。
「地図をパソコンで見てたんだけど電源が切れてしまいそうになったから、携帯で地図の写真を20枚も撮ってなんとか向かってたんだ。
それでも道に迷って、深夜なんにもない田舎に迷い込んでああもうだめだと思った時に、この車にカーナビが付いてたことを思い出したんだよ!
そこからはもう超順調さー。カーナビって便利だね!」とルイ。
相変わらず過ぎて脱力する。



再会を喜び会ったのも束の間、二回目のショウの時間が迫る。
一回目の教訓から一時間前に現場に向かいロープをひくことに。
さすがに誰もいなかったので安堵。






(photo by 鈴木さや香) 

二回目の会場は、レストランや理容室の並ぶ街角のちょっとした一角。
一回目の美術館より数は少ないとは言え、道の通り抜けが出来ないくらいの人が集まる。
他のフェスのように街全体に人が溢れ返るということはないにしても、ショウを熱心に観て回る人たちが多くいることは確かなようだ。
穏やかなフェスの空気、落ち着いた街の雰囲気に好感をもつ。


(photo by 鈴木さや香)  

ショウが終わったあと、子どもにサインをねだられる村田さん。
ヨーロッパでサインを求められるのはいままでにない経験。
「バーバラビットのキャバレーショウ」はまだしも、「かたわれ」は子供にとって決してとっつきやすいとは言えない作品だと思う。
それでもペリグーでは、何人もの子供たちがはにかみながら感想を伝えに来た。
小さな子供が「ビズ(キス)して」と口をとがらせて待っていたり、なんとも可愛らしい。

村田さんがヨーロッパでかたわれを演じ始めて今年で三年目、少しずつ、でも着実に、観てくれる人への届き方が変わってきているように感じる。
ともすれば難解ともとれる「かたわれ」は、百人観て百人が好きになるような作品ではない。
にも関わらず、その割合が段々と変化していることが、お客さんの反応や子供たちの様子から見て取れる。
「かたわれ」の大きな筋書き自体に、三年間変化はない。
しかし、ひとつひとつの感情、動きの間にあるひだのようなものが、どんどんと細やかに滑らかになってきている。
ほんの小さな違いがもたらす大きな変化。
この日の帰り、道を歩いていると若い女の子が後ろから走って追いかけてきて、「ただありがとうと伝えたくて。あなたのショウを見てからずっと泣いていたの。」と頬を涙で濡らしながら伝えてくれた。


(photo by 鈴木さや香)   

初日、二回ともショウを観に来てくれたこのおじさんは、ロープをまとめるのに苦労していた私に見かねて自らロープを結んでくれる。
手際の良さに感心していたら「僕は船乗りだからね!」とのこと。
彼の名前はディディエ。
ボルドーに住んでいるという彼は「このフェスの後はどうするんだ?ボルドーに僕の昔のガールフレンドの家があって、彼女は夏の間留守だからそこに泊まるといい。」と言ってくれた。
私たちの次のフェス、リブルヌ(Libourne)にも行く予定だったというディディエは、ペリグーからボルドーまで、そしてボルドーからリブルヌまでも車で送ってくれるという。
ありがたや。



二日目。
小さい記事だけれど新聞に載る。

この日の朝はドミニクからの電話で起きた。
「11時からプレスミーティング(例の記者会見)があるんだけど、バーバラに出て欲しいって言ってるのよ~。私伝えたかしら~?」とのこと。
全く聞いてません。
慌てて準備して会場へ向かうと既に準備万端だったようで、村田さんの到着と共に会見が始まった。


(photo by 鈴木さや香)    

懸命に話を追っていると、司会をしているのはジャーナリスト、参加しているのはフェスティバルのオーガナイザーとINのカンパニーの代表者らしい。
OFFのカンパニーからもひと組代表が出席することになっているらしく、それに村田さんが選ばれたようだ。
会見を聞いているのはジャーナリストだけでなく一般のお客さんが多数を占めている様子。
今日から始まるINのプログラムの紹介や、これまでにあったINのショウに対するお客さんからの質問や感想が飛び交わされる。
みんな次々に挙手して積極的に意見を述べるところはさすがフランス。

もちろんすべてのやり取りがフランス語で行われるわけで「村田さんどうするのかなあ」とハラハラしていたが、写真左隣の女性と右隣のドミニクが通訳をしてくれる。
作品に関する簡単な質問のあとに、「数年前にこのフェスに参加した日本人のどんどろを知っているか。彼の作品と君には何かしらの共通点があるように感じる。」と司会が言った。
「百鬼どんどろ」の岡本芳一氏は等身大の人形、仮面などを遣ったパフォーマンスを行う方で、日本のみならず海外で幅広く活躍されていたらしい。
残念ながら私は観たことがないが、村田さんは知り合いだったという。
岡本氏が二年前に亡くなったことを告げると、司会の彼だけでなく出席者たちは一様にショックを隠せない様子だった。
それを見て、偉大なアーティストの足跡にほんのわずかばかり触れたかのような気が、私はした。


二日目、一回目の会場は市役所広場。
だだっ広く車通りもある騒がしい場所で、しかも強い日差しの照り付ける時間帯。
初日に手持ちのアンプに不安を感じていた私たちは、ドミニクに相談してフェスティバルの大きな音響を貸してもらえることとなる。
シュチュエーション的な不利は否めないが、音響のおかげで数段マシに。







(photo by 鈴木さや香)     

日差しを遮るものが何もないなか、座り込んで熱心に観てくれたお客さんたちにも拍手。
この日はペリグー滞在中の間でも特に暑い日だった。


(photo by 鈴木さや香)      

小さい女の子が手を口の前に揃えながら、一生懸命村田さんに話しかけている。
どうやら「あなたのマスクね、すごく怖かったの。すごくイヤだったの。」と言っているらしい。
そっか、ごめんねえと村田さんが笑いながら言う。
それでも他の大人に、「でももう一度観てみたい?」と聞かれると、「うん。」と彼女は答えていた。


二回目の場所は、フェスティバル全体の中でなぜか村田さんだけに割り当てられた場所。
決まった時にだけ考古学博物館として公開されるが、普段は個人の所有物だという古いお屋敷の中庭だった。
大きな木があり、その後ろに街全体が見渡せるとても美しい場所。
庭の片隅にはとても古い石棺がふたつ横たわっている。
(後で確認したところ、中には誰も入っていないらしい)


(photo by 鈴木さや香)   

パフォーマンスの前に、最後の言葉のカンペを用意する私たち。
初日の美術館の砂利ほどではないにしろ、ここの地面も大小様々な石が埋まっており裸足には難儀。
みんなで必死に大きな石をほじくり出す。










(photo by 鈴木さや香)   

ここからの景色はやはり珍しいらしく、ショウのあとたくさんの人が見晴らしを覗きに来ていた。


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ペリグーは歴史ある街らしい。
夜だけでなく昼間でも、ふとした路地の美しさにハッと息をのむ。
ショウが早く終わったこの日、せっかくなので「かたわれ」の宣材写真を撮ることになった。

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静かな路地でいきなりかたわれ。
通りすがりのカメラおじさんが便乗して撮影したり、「ちょっと見てってもいいかな?」と見物をしていく人も。


(photo by 鈴木さや香)    

この上なく風景とマッチした写真の数々は、そのうちきちんと公開されるまでのお楽しみ。
目まぐるしいペリグーの日々も、残すところあと二日。