昨日の夕刻、ニュースを観ようと思ってテレビを付けたところ、岸田首相の記者会見が始まるところでした。

 

 はて、韓国大統領との首脳会談の記者会見は昨日だったはずだが、と思って見てみると、「少子化対策」に対する首相の見解と方針についての記者会見でした。

 

 国会で散々「異次元の少子化対策」という言葉を揶揄されていましたので、このあたりで何が「異次元」なのか、首相の考えを公表しておこうという意図だったのかもしれません。

 

 具体的な政策の中身については近く発足する「子ども家庭庁」が中心となり実施していくということで、記者会見ではその「方針」だけが語られた感があります。

 

 ただ、僕はこの記者会見を聞いて、そこで語られたある政策は、下手をすると少子化を今以上に加速させかねないのではないかと危惧を抱きました。

 

 それは、男性の育児休暇取得率85%という数値目標です。手始めに、霞ヶ関の省庁にこの達成を求める、と表明しています。

 

 男性の育児休暇取得を促進することは、基本的には少子化対策として間違っていないと思います。問題は、ここに数値目標だけを掲げて、その手段を各省庁や事業所に委ねてしまうような「丸投げ」が行われた場合です。

 

 たまたま、先日購入した『縛られる日本人 ~人口減少をもたらす「規範」を打ち破れるか~』(メアリー・C・ブリントン著 中公新書)で述べられていたことなのですが、日本の男性の家事分担割合は、『教育レベルと勤務先の会社の規模の面で「成功」している男性ほど、家庭での無償労働への参加が少ない』傾向が指摘されています。

 

 そして最も重要な問題は、以下の文に述べられています。

 

『夫婦間の家事労働の分担が極めて偏っている理由として、(中略)ほとんどの人の頭のなかで、「男は仕事、女は家庭」という古い考え方に代わって、それと似ているけれど微妙に異なる考え方が広まりはじめていることが浮き彫りになったのだ。その考え方とは、男性が出世して昇給するためには過酷な仕事に耐えなくてはならない、というものである。この発想は、男性が育児休業を取得できない理由として、回答者が挙げた要因と非常によく似ている』

 

 さて、これらの主張が正しいとすると、先に述べた男性の育児休暇取得の数値目標達成のための手段が「丸投げ」された場合、どのような事態になるか、明らかです。

 

 それは、「育児休暇取得対象者にならないために、子どもを作ることを控える」という選択です。

 

 困ったことに、男性が家事や子育てなどの家庭における「無償労働」を多く引き受けている国が出生率が高いという研究も同本では紹介されており、男性が家事や育児を分担しやすくなる育児休業制度そのものは少子化対策として必須であると思われます。

 

 ある種矛盾した結果が想定されてしまう男性の育児休業制度ですが、結局は「男性が出世して昇給するためには過酷な仕事に耐えなければならない」という風潮を変えなければならないのです。

 

 つまり、少子化対策と「働き方改革」を一体で進めなければ、どんなにお金をばら撒いたところで効果は限定的なものに留まるでしょう。