ある公共施設のホールで時間つぶしをしていたとき、ふと、遠目に掲示ボードに貼り付けてあったポスターのキャッチコピーに目がとまった。

 『法隆寺と1:√2』

 なにかしら古代建築にも数学的な法則がある事を示唆しているのだろう。そのポスターの中心には夕焼けに映える法隆寺の五重塔らしき写真があり、その下に件のキャッチコピーが遠くからでも分かるくらいの大きなフォントで書かれていた。
 建築か数学に関する講演会でもあるのかな、と思いながら、その『1:√2』という何かしら神秘的な響きに、凡人には計り知れないような飛鳥人の知恵が隠されているのかしらん、、、、、と、考えたとき、「あれ?」と考え直した。
 『1:√2』という比は、何のことはない、正方形の一辺を1としたときの辺と対角線の長さの比に他ならない。正方形なんて、人間が建築を始めた時から最もポピュラーに使われ続けた形だろう。そんな一般的な数学比を、わざわざ法隆寺なんて古代建築に結びつける必要もないじゃないか。こりゃ、何かトンデモ講演なんじゃないかと、掲示ボードに近づいてそのポスターをよく見てみた。
 そうすると、五重塔の写真の横に簡単な解説が書かれていた。√2は、法隆寺では対角線としてではなく、建築物の空間などの一辺の長さの比に採用されているらしい。この『1:√2』は、「白銀比」と呼ばれており、古くから日本人が好んできた比ということだ。なるほど、たとえば1:√2の長方形を√2の辺で二つに折り返すと、その小さい長方形もやはり1:√2の辺の比となる。ふすまなどで空間を仕切っても、部屋の一辺の比は変化しないというわけだ。
 なるほど、これはちょっと面白いかもしれない。この講演会はいつあるのだろう、と、日付を確認してみると、
 
『申し込み締め切り○月○日 検定日○月○日 数検 ~数学はおもしろい!~』

確かに、面白かったよ。良い時間つぶしにもなったしね。