第1章 僕の生い立ち  その1


 僕が作られて、4年になる。

 僕は大勢の仲間達と、大きな棚に立てかけられていた。
 僕の周りの仲間達は、日を追う事に、一つ、また一つと、買われていった。
 けれど、僕は誰にも、引き取られなかった。
 僕を手に取る人はいたけど、決まって、「この板はだめだ」と言われ、僕は元の棚に戻された。
 半年経つと、僕や僕と同じように引き取られなかった仲間達は、まとめて薄暗い部屋に入れられた。
 そしてまた半年経つと、部屋から出され、また元の場所に置かれた。
 いや、元の場所じゃなかった。
 初めの棚から一つ横に移動した棚に移っていた。
 それから、僕の胸に付けられていた数字が、初めのものよりずいぶん小さい数字に替えられた。
 その年は、僕を手に取る人も少し増えた。
 でも、みんな口々に、「この板はだめだ」と言う。

 僕のどこがいけないのだろう。

 次の年も、また、僕は隣の棚に移動した。
 そして、同じ事が繰り返された。
 僕は、自分がどうしてここにいるのか、分からない。
 ただ、僕が分かっていたのは、僕は「だめだ」と思われている事だ。
 引き取られてゆく仲間達は、「これがいい」と言われてる。
 だめな僕には、引き取り手がないんだ。
 そうして、その年も僕はまた、薄暗い小屋の中に戻っていった。

 半年後、僕は再び、棚に戻された。
 また一つ横の棚に移った。
 その時、僕は気が付いた。もう、そこから横には移動できない。一番端っこの棚だって事を。
 (最後なんだ......。)
 僕は、そう感じた。なぜか分からないけど、僕に次はないんだ、と確信した。
 でも、僕に一体、何ができるだろう。自分が何者かも分からない、「だめ」な僕に。

 去年ぐらいから、僕とずいぶん形の違う仲間が多くなった。
 その仲間達は、僕より幅が広くて、ずいぶん短い。
 でも、それらの新しい仲間達は、飛ぶように多くの人達に引き取られていった。
 「この板はすごいよ」「とてもいい板ですよ」「扱いやすいですよ」......そんな言葉が、彼らに向けられていた。
 僕の方は相変わらず、僕を手に取るお客さんはいても、棚に戻される繰り返しだ。
 僕はこのまま、自分が何者なのか、知らないまま終わるんだな、そう思っていた。

 ある日、僕の前を通り過ぎるお客さんの中では、どちらかというと少し年をとって、ちょっと地味な服を着た人が、僕の前に立った。そして、僕と僕の胸に付けられた数字の札を見比べ(その時は、初めの数字の5分の1になっていた。)、なぜかとても怪訝な表情をして、おもむろに手を伸ばし、僕をつかんだ。
 そうして、しばらく僕をしげしげと眺めた後、やっぱり、今までのお客さん達と同じように、僕をまた元の場所に戻した。
 そう、それはいつもの事なんだ。
 ただ、そのお客さんは、その後しばらく、僕の前で腕組みをして、なんだか奇妙なモノを見るように顔をしかめて、僕を見ていた。
 僕も、これまでいろんなお客さんにしかめっ面をされてきたけど、ここまであからさまに嫌な顔をされたのは初めてだった。なんだか、自分がとても恥ずかしくなった。もう、このお客さんにどこかへ行って欲しいと思った。
 僕のこの願いは、程なく叶えられた。そのお客さんは、通りかかった店員さんに声をかけられ、一言、二言話をして、なんだか申し訳なさそうにその場を後にした。
 その日は、それで終わった。

 次の日。
 この日が、僕にとって運命の日となった。