加納を前にすると淫らな妄想が止まらなくなる。どうしてなんだ。こんな思考が紛れ込むはずもないオフィスでの仕事の指示の場面なのに。
ペンを握る加納の指。彼女はマニキュアも塗らない。いつもきちんと摘まれた短い爪をしている。それもナチュラルなままで白い手の甲に続くふっくらとした指の先に健やかに並んでいる。
以前加納にどうしてマニキュアを塗らないのかと聞いた時に「お料理するのに、無理ですわ。部長」と微笑んで返答された。
僕は彼女のすべらかな指を見る度に、お料理するのは食材じゃあるまい、と思ってしまう。見栄えはいいが男の敏感な部分を愛撫するのにいちばん邪魔なのが長い爪だからだ。
その指で週に何日くらい、夫を扱いているんだ?加納。その手だけで逝かせているのか?

「わかりました。部長、この件はどなたに現場の指示を仰げばよろしいでしょうか。」
「内容については僕が直接指示をする。現場は古賀さんに仕切ってもらうつもりだ。古賀さん」
「はい、部長。」
心得た風で古賀さんがやってくる。すぐ前の席だ、何を話しているかもわかっている。なのに呼ぶまでは席に来ない。さすが、僕の長年の大番頭だ。
それよりも、驚いたのは加納だ。
ここまで部長から直接指示があれば、自分が仕切れると誤解して有頂天になっても当然なのに、どなたに指示を仰げばいいですか・・・と来た。分を弁えているというか、ほんとうになかなかいないな今時はこんな女性社員は。