レッスン風景

前回までのあらすじ


重要な取引先のコンペに誘われて断れなくなったA部長がゴルフを始める事になり、手ほどき役の私と一緒に初めてのゴルフ練習場に向かいます。

ここ数日は仕事が忙しく、レッスンDVDを見ただけでほとんど何も出来ないまま1ヶ月を過ごしたA部長に、コンペまでに残された3ヶ月間で上達する秘策はあるのでしょうか?

初めてのゴルフ練習場は右端の打席で


今日はA部長と待ち合わせをして、私のいつも通っている練習場に向かいました。

A部長はゴルフの練習をするのは初めてなので、初回だけ私が案内役として同行をします。

練習場に到着したら、まずは打席の確保をします。

受付で打席を指定してチェックインをするタイプの練習場もありますが、私の通う練習場は、空いている好きな打席を確保してから練習を始めるスタイルです。

打席の場所はどこでも良いわけでなく、初めての方を連れて行く場合は一番右端の打席を選びます。

未経験でゴルフを始めると、スイングをしてもボールに当たらない事がほとんどですし、当たりどころが悪くてボールを真横に飛ばして、隣の打席の人に当ててしまう事もあるからです。

ですから、スイングに慣れて真横に飛ばさない自信がつくまでは、前に誰も立っていない一番右端の打席を確保したほうが安心して練習が出来ます。

反対に経験者の方々には、右端の打席はゴルフ入門者のために、なるべく空けてあげるようにお願いをしたいと思います。

今回は、運良く一階の一番右端の打席がすぐに確保できたので、そこで練習を開始です。

ミスショットが出る原因を自分で修正する


「おぉー。これがゴルフクラブですか。すごいですね。」

私が持参した初めて実物を目にするゴルフセットにA部長は興味津々です。

ドライバーからパターまでのクラブとそれぞれの役割を簡単に説明した後に、

「まずは、どれでもいいので好きなクラブで打ってみてください。」

と言ってA部長に好きなクラブを選んでもらうと、少し考えた後に、

「じゃぁ、せっかくなので、スタートの時に使うドライバーで。」

とキャディバッグの中からドライバーを抜きました。

二、三回軽く素振りをした後にアドレスをして、ハーフショット気味に打ったボールは、地面スレスレで低く飛び出した後に転がって70ヤード先の地点で止まりました。

「おおぉ。すごい。空振りせずにちゃんと当たって前に飛びましたね。普通は空振りして当たらないんですけど、A部長は才能がありますよ。」

A部長は得意気に、何度もドライバーを振り続けますが、一球も空振りせずになんとか前に飛ばし続けます。

少し慣れてきた頃合いを見計らって、A部長に訪ねてみました。

「今のボールは右に飛び出した後、更にボールが右に曲がりましたけど、原因はわかりますか?」

「えーっと、DVDで見たナントカの法則とか言うやつだな。スイング軌道が左から右になっていて、クラブのヘッドが右に向いているから?でしたっけ?」

「そうです、正解です。それを練習で修正するにはどうしたら良いですか?」

「うーんと、まずは大げさなくらいに意識してスイングを左に引っ張る事かな?」

「はい。完璧です。もう自分ひとりで練習をしてもミスショットが修正出来るはずなので大丈夫ですよ。」

ここ数日は仕事が忙しく、渡したDVDも見ているか心配でしたが、どうやら私が最低限この部分は見てくださいとお願いしてあった箇所は、全て見て覚えているようです。

その後も、A部長はミスの原因を探りながら修正を繰り返し、1カゴ70球のボールを全てドライバーで打ち終えようした時の事でした。

「うわっ!やった。まっすぐ飛んで向こう側のネットに直撃しましたよ!これは、病みつきになりますね。」

「おお、この距離計では、150ヤード飛んでいる事になっています。今のショットが出せるなら、コースに出ても十分戦えますよ。」

「うーん。ちょっと慣れてきて調子が出てきたなぁ。もう、1カゴドライバーを打っていいですか?」

「ええ、もちろんいいですよ。」

普通の人なら、同じクラブを何度も打ち続ける練習は単純で飽きてしまうのですが、ゴルフを始めたばかりのA部長にとっては、ボールを打つ事自体がまだ楽しいのかも知れません。

練習場にいる人をお手本にしてはいけない


その後も、ドライバーを一心不乱に打ち続けたA部長でしたが、私が練習場に同行できるのが初回だけなので、頃合いを見計らって声を掛けて他のクラブも試してみる事にしました。

「A部長、そろそろ他のクラブも試してみましょうか?」

「はい。でも、少し疲れたのでMASSYさんが見本で、どのクラブでも良いので打ってみてくださいよ。」

「わかりました。では、このユーティリティというクラブを打ってみますね。」

と言って私の打った球を見たA部長は、

「えっ?そんなに軽く打つもんなんですね。おまけに私の打ったドライバーより飛んでます。」

「芯に当たれば振った力の1.5倍がボールに伝達されるようにゴルフクラブが設計されていますから、クラブを振り回すよりも芯に当てた方が効率がいいからですよ。」

「うーん。そうなのか。ゴルフって奥が深いな。この練習場にいる人を見ても、みんな個性のある打ち方だから、何をお手本にすればいいのか悩みますね。」

「そうですね。でも、ここの練習場にいる人達は、私を含めた全員がお手本にしてはいけない人達です。」

少し不思議そうな顔をしたA部長に、この練習場にいる人達をなぜお手本にするべきでないかを説明しました。

・プロやそれに準ずる人は、自分専用の練習場や所属コースで練習をする為、練習場には居ない事。
・練習場に居たとしても、貸し切りエリアのようなところにいるので、この練習場にはそのような場所が無い事。
・アマチュアプレイヤーのスコア分布に基づく確率論として、練習場ではお手本とすべき上手なプレイヤーと出会える確率がほぼ無い事。

「なるほど。仕事と同じで、自身が結果を出すためには、結果を出している人をお手本にするべきで、ここの練習場にはそんな人が居ないという事か。」

「はい。打ち方に迷った場合は、DVDや動画サイトなどでプロのスイングをお手本としてください。いくら上手そうに見えても、この練習場にいる人の打ち方の真似は絶対にしてはいけません。」

練習するクラブは三本だけ


その後もボールを打ち続けたA部長でしたが、ちょうど3カゴ打ったところで今日の練習は終了です。

次回からは、A部長の空いている時間にひとりで練習をするので、短期間で上達するための秘策を与える必要があります。

「次回からの練習は、短期間で上達をするためにクラブの本数を三本に絞って練習をしてください。ドライバー、7番アイアン、ピッチングウエッジの三本です。」

「えっ?三本だけでいいんですか?」

「はい。6番アイアン以上の距離の出る地面から打つクラブは、きちんと打てるようになるまでに相当の練習期間が必要ですから、秋のコンペまでに練習をしても成果が出せずに徒労に終わります。私もスコア100が切れるまでは、ドライバーと7番アイアン以下でラウンドしていましたから、A部長もスコア100が切れるまではそうしてください。」

「途中のクラブの、例えば8番アイアンとかは練習をしなくて大丈夫なの?」

「ええ、大丈夫です。8番アイアンなら7番と同じように打てば良いですよ。ちなみに私は、練習場で8番アイアンを一度も打ったことがありませんが、グリーンに乗せる確率が一番高いのは8番アイアンなんですよ。」

「ふーん。ゴルフってそうやって練習するのか。じゃぁ、一回の練習でそれぞれのクラブはどれくらい比率で練習すればいいの?」

「比率はドライバーが2とすれば、7番アイアンとピッチングウエッジをそれぞれ1の割合です。ここは1カゴ70球ですから、35球をドライバーで18球を7番アイアン、残りをピッチングウエッジにしてください。」

パターの練習は毎日


練習を終えて駐車場で車に乗り込む別れ際に、

「あっ、A部長。そういえばもう一つ大事な練習を忘れていました。パットの練習です。自宅でこのパターマットを使って寝る前に毎日10球だけでいいので、必ず練習するようにしてください。」

と言って、ボールを1スリーブとパターマットを手渡しました。

「ボールはカップに入れる事を練習するのではなくて、坂を登りきってカップにちょうど入るくらいの”力加減”を練習して下さい。カップの奥に当てるのは強すぎですし、坂を登りきらないのは弱すぎですよ。」

「わかりました。何から何まで今日はありがとう。」

こうして初めてのゴルフ練習場での練習を終えたA部長は家路につきました。

たった一回の練習でしたが、秋のコンペまでに私が知り得る限りの手ほどきは出来たはずです。

後は、A部長の成長ぶりを静かに見守るのみです。

次回予告


初めての練習場から約一ヶ月。

その噂を聞きつけた社長のお誘いで、A部長と一緒にシミュレーションゴルフに挑戦する事になりました。

次回は、その模様をお届けしたいと思います。



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