消費税あるいは消費増税を肯定すると,寄せられる声は「財務省の手先,財務省の犬」。少し調べて見たが,日本より遥かに高い税率のEU諸国でこういう議論はないようだ。

逆に,EUでは財政規律に関する厳しいルールが存在している。「財政収支を均衡する,または構造的財政収支の赤字のGDP比をマイナス0.5%以下とする」という大原則を,各国憲法など拘束力のある永続的な法で定めることが各国に求められているのだ。

 

 ところが,日本では,消費税増税も含めて国民負担率を見直し,財政規律を維持しようという当たり前の呼びかけをすれば,「デフレを放置するのか」「内国債である限り大丈夫」「経済をわかっていない」などのステレオタイプの非難のオンパレード。

その非難の声の大前提にあるものが「消費税は悪」という刷り込みではないのか。

 

思えば,日本には所得税の源泉徴収という,元々は第2次大戦前の戦費調達の工夫に端を発する制度がある。この源泉徴収制度で税金を強制的に徴収されて来たが故に,「所得税」に関しては「悪」という意識は希薄だ。所得税は給与明細に並んでいる数字に過ぎず,取られているという実感が「薄い」,というよりは「無い」からだ。

一方で,消費税は,国家の成熟に伴い政府が「大きな政府化」するのに連れて膨らみつつあった財政赤字を賄うために,1979年の大平内閣の時から導入が図られてきたが,耳慣れない新税に対する国民の反発や,「消費税は悪」とする野党のポピュリズム闘争によって,大平,中曽根各内閣では導入は断念され,ようやく1989年の竹下内閣に至って成立したのであった。大平内閣当時に消費税が導入されていれば,経済成長と共にする税率上げも経済に大きな影響を与えることなくできたであろう。当時日本は「JAPAN as No.1」への絶頂期に向かう途上。社会福祉大国に見合ったEU並の消費税率を取り入れることも可能だったろうが,「消費税は悪」とするマスコミや野党の前に,政権与党の選挙での大敗という結果もあって,これは実現しなかった。今思えばこれが日本の不幸であり,今日の財政危機もこの時から定められた運命だった。

(出典:「我が国の財政事情(H31年度予算政府案)」H31年1月・財務省主計局)

 

思い起こせば,第2次大戦前,軍縮や財政均衡(財政均衡論は無理な軍備拡張の妨げとなっていた)を説く政治家たちは暗殺や糾弾の対象となり,時代の隅に追いやられ,勇ましい戦争論者,軍拡論者が人気を博していた。

それと同じことが今,起きていないか?野党をみればおしなべて「消費税増税反対」「消費税は経済にマイナス」と叫び,庶民の味方を叫ぶポピュリストは「消費税撤廃」まで主張する。所得税は源泉徴収によりオカルト(目に見えない・潜在的)な存在であるが故に,消費税ばかりが目の敵にされている。

 

本当は,こういった無謀な政策や主張に待ったをかけるのは国民の役目。しかし,日本のマスコミや野党各党は,1979年の大平内閣当時から一歩も前進していない。「消費税は悪」,だから「消費増税も悪」。その一本槍で,「消費税は悪」と叫ぶのが庶民の味方,というステレオタイプの主張からまったく抜け出せていない。そしてその声に引きずられてしまう国民も多い。

そもそも,今の日本の予算が拡大しているのは,野党(特に共産党)が叫ぶように防衛費が拡大したからではない。社会保障費だけが膨張し,その社会保障費増に伴う予算増を税収ではなく国債増発で賄ってきたが故に国債関係費も膨張したからだ。

 

(青山まさゆき事務所作成)

 

よく言われるプライマリーバランス(基礎的財政収支)が黒字化しても,実は赤字の膨張は止まらない。国債費のうち利払い費のところまで含めて均衡して赤字の膨張は止まる。そして償還費のところにまで食い込んで初めて国債残高は減少する。

(青山まさゆき事務所作成)

 

そのためには現在よりも税収を18兆円増やさなければならない。消費増税反対論者はよく所得税(累進強化)を上げろ,法人税を上げろ,と主張するのでシミュレーションしてみた。

(出典:『財務金融資料集(税制編)』H304月衆議院調査局財務金融調査室)

 

所得税上げ論者の方は,累進強化を言うので,高所得者層以外の所得階層の税率上げは想定していないとみられる。しかし,人数が圧倒的に多いのはその層なので,その層も上げなければ税収増はほとんど見込めない。また,上記以外に住民税が10%別途課税されていることも考慮しなければならない。

次の表は所得税累進強化のシミュレーション。

(青山まさゆき事務所作成)

 

そして,法人税その他を大雑把に増税してみたのが次表。

 

つまり,所得税も法人税も消費税も全部増税してようやくPBがトントンの76兆円。赤字国債はまだ増えてしまう。換言すれば,野党や左派・リベラル派の一部が叫ぶように,所得税や法人税だけ上げてもPB均衡すら達成できない。

 

どの税率をどれだけ上げるのが現実的かは議論の余地がある。所得税や法人税を累進的に課税を強化することも,国民的公平感からは例えば所得税や法人税をあまり高率にすると富裕層や有力国際企業の海外移転を促してしまうことも考慮しなければならないだろう。

 

いずれにしろ,これから,2050年に向けて日本の社会は,社会保障費の面から大変に厳しい時代を迎える。

(青山まさゆき事務所作成)

 

2050年,65歳以上の人口層が4割,15歳から64歳の人口層が5割で均衡に達する。現在よりも高齢者の割合が10%増え,働き盛り層が10%減少するが,その後はそれで安定する。つまりは,その時,2050年に備えて社会保障を維持するために,その場しのぎではない国民負担の在り方を議論すべき時が来ているのだ。

言葉に酔っている暇はない。冷静で合理的な思考を,政党,政治家,官僚,そして国民すべてが受け入れ,成熟した民主政治に脱皮すべき時なのだ。