橋梁には、必ず橋の名前である『橋名』が刻まれています。
親柱の石材に、直接掘り込まれたり、橋名板と呼ばれる、板状の”銘板”に文字が書かれたものを取り付けたりと、いろいろなタイプに分かれます。橋名が記されていない橋はいままで見たことがありません。
それだけ、橋には重要なアイテムだといえそうです。
その橋名を記されだした時期ですが、調べてみてもよくわかりませんでした。ただ、明治以降に写真が撮影された橋梁については、見受けられます。
おそらく、明治より前から主要な橋には記されてはいたのでしょうが、幕府などからの統一的な指示はなかったようです。
その橋名板ですが、明治以降の近代橋には、”漢字”と”ひらがな”の二つのパターンで設置されています。そして、時代が進むにつれて、”橋名の漢字”、”橋名のひらがな”、”竣工年月日”、”渡る河の名称”等の四つのパターンが多くなってきています。
そういえば、橋名板はいつごろから取り付けられているのでしょうか。いろいろと調べてみましたが、”証拠”を見つけることは無理でした。なぜなら、当時は写真がなかったからです。
感覚的な話ですが、平安時代頃には”立札”みたいな物が京都あたりにはあったのかもしれません。
そういえば、古い橋といえば誰もが思い出すであろう、一休さんの橋(笑)
『このはし わたるべからず』
そこには、橋名板はありませんでした。ですが、立札を建てるという事から橋名板を設置する風習はあったのかもしれませんね。
【テレビ朝日 東映映画 てれほんかーどより転載】
さて、ここからが本題ですが、橋名板の平仮名文字ですが、『橋』の読み方が『ばし』では無くて、『はし』になっています。
例えば、『淀屋橋(よどやばし)』が、『よどやはし』の様にです。
淀屋橋といえば、大阪を代表する橋といっても過言では無いと思います。
その橋名板ですが、漢字ではもちろん『淀屋橋』です。
交通標識には英語名が表記されています。そこには、もちろん『Ypdpyabashi』・・・『よどやばし』と記載されています。
ですが、ひらがな標記だけ『よどやはし』になります。
何故、『ばし』という平仮名は、濁音を取って『はし』と記載するのでしょうか。
かつて、橋梁の専門家から聞いた事があります。
橋名板から濁音を取るのは、「橋が濁流に流されないように」といった、言葉の迷信・・・いわゆる言霊を恐れてとの事です。
調べていくと、埼玉県のホームページに、その理由が書かれていました。
それによると、「川の水は濁らず」の様です。
私が聞いていた理由とはニュアンスが若干違いますが、おおよそ合っているのではないでしょうか。
それでは、実際にその書き方を明記している文章はないかと探してみると、愛知県の橋梁設計の手引きにありました。
他にも岐阜県の橋梁設計要領にも記載がありました。
残念ながら、全国の都道府県に公に通達されているのでは無いようです。つまり、ほとんどの都道府県では、『はし』の平仮名は濁らないとの明記はありません。
ですが、私が知っているかぎりは、全国の橋梁のほとんどは、『はし』と濁らない表記になっているようです。
いろいろと調べてみて、実態としてはこんな感じだったのではないでしょうか。
建設業者:「完成した橋梁についてですが、橋名板の平仮名表記はどうしましょうか。」
役場の担当者:「それは、どういう意味?そりゃ、『愛知橋』と読んで字のごとく『あいちばし』でしょう。」
建設業者:「『ばし』と濁音で書くと、洪水で橋が流されるとかいって、昔はいやがっていたみたいですよ。」
役場の担当者:「そんなん言われると、ちょっと不安になるなあ。世の中、うるさい人もいるから、あとで苦情を言われないように『ばし』はやめて、『はし』にしておこうか。まあ、その方が無難かな。本当は、そんな昔の迷信なんて、どうでもいいんだけどなあ~」
なんて感じでしょうか(笑)
さて、全国の橋のほとんどは、ひらがなで『はし』と記載している書きましたが、あくまでも風習に逆らってチャレンジャーな橋も多いです。
大阪市内の中之島にある、ばらぞの橋は、『ばらぞのばし』と濁音使いまくりです。
水晶橋は、『すいしょうばし』でした。
天満橋ですが、『てんまはし』と『てんまばし』の2通りの記載があるという、おそらく日本でここだけの貴重な橋名板だと思います。
これは、かなりのレアな存在だと思います。おそらく、この事実に気が付いたのは、日本で私が初めてかもしれません(大笑)
昔からの風習を気にせずに、『はし』をオリジナルな読み方の『ばし』にするのは、比較的大阪が多いのではないかと感じました。どうも、その理由ですが、大阪の橋は幕府の直轄工事(公共事業)で橋を架けたのではなく、民間資本で架ける事が多かったからのようです。
つまり、いろんな風習やしがらみなんぞは気にしない・・・といった感じでしょうか。
読み仮名一つをとっても、日本語というのは面白いですね。