過剰なライター/翻訳家 小林真里の rock n' roll days

映画評論家/翻訳家/音楽ライター Masato Kobayashiによる、最新ライヴ・レポート、映画批評、アート鑑賞記などなどニューヨーク&東京ライフをあらゆるアングルからお届けするエッセイ的ジャーナル!


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 5人が犠牲となった中目黒駅近くでの、
日比谷線の脱線事故から6年の月日が経ったそうだ。

僕は、あの日のあの朝のことを鮮明に覚えている。

当時新宿の某映画館(5月に閉館になるんだってさ!
びっくり!!)に勤めていた僕は、いつも午後から
遅番で働くことが多かったのだが、この日は珍しく
早番で、寝ぼけ眼なまま池袋から痴漢の巣窟、または
痴漢の甲子園として有名な埼京線の満員電車に
揺られていた。

そして、新宿駅に電車が停車する直前、突然電車が
急停車した。吊革も持っておらず、不覚にもバランス
を崩した僕は、電車が揺れた反動で一瞬できた
エアポケットの中に転倒した。電車の中で転倒した
ことも初めてだったので、一瞬自分の居場所を見失い
ながらも、随分新鮮な視点から周囲を見渡すことが
できて、へえ。と思った。そして、目の前にいた
女性が僕のことを見ているのだが、気が動転してる
のかなんなのか、言葉も出てこないし体も固まった
ままのようなので、僕はとりあえず何事もなかった
かのようにポーカーフェイスで立ち上がった。
満員の電車内で転倒という斬新な技を経験して、
妙に興奮しながら新宿駅東口の改札に近づいたところ、
女性の甲高い叫び声が聞こえてきた。

「はなせよ!仕事に遅刻するだろ!!」

叫び声がする方向を見ると、目が死んだ白身魚以上に
虚ろな20代後半の男性を脇に構えたJRの職員が
若い女性の肩を後ろから掴もうとしているところだった。

「あとは、あんたたちでやってよ!話はその痴漢に
聞きなよ!私は今まで何回も経験したことがあるから、
そっちに付き合ってたらどれだけ時間取られるか
知ってるんだよ!」

「いや、すぐ終わりますから!」
困惑気味に、女性を説き伏せようとする職員。

よくその女性の顔を見ると、僕はその女性に
見覚えがあった。
それは数週間前に、僕をある事件に巻き込んだ
女性だった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その数週間前。

その日も、早番で頭がほげほげしたまま
僕は埼京線の満員電車に揺られていた。
夜行性で低血圧な僕は、朝が本当に苦手なのだ。
そして同様に、朝の満員すし詰め電車もストレスフルで
最悪だった。

まあ、新宿に到着するまでの5分間の辛抱さ。
そんな風に思いながら、立ったままの睡眠にトライしようと
思ったその瞬間、近くに立っていた女性が突然叫び声を
あげた。

「お前、さっきから触ってんの分かってんだよ!
ふざけるんじゃねえよ、この痴漢野郎!!
あたしは、今まで何度もそういう経験にあってるから、
すぐ分かるんだよ!!なめるんじゃないわよ!
こっちはその筋のプロなんだから!!」

プロということは、それでお金を稼いでいるということか。
凄い人だな。などと馬鹿な発想をしながら僕は、
慎重に隣にいる加害者らしき男の顔をうかがった。

男「な、なに言ってるんだ、変な言いがかりをつけるなよ!」

女性に腕を掴まれている男性は、力強くそう言いながらも、
目が泳ぎまくっていた。クロールか。と、僕は
即座に見て取った。

女「お前、警察に突き出すからな!覚悟しな!
駅に着いても、逃げるんじゃないよ!!」

このお姉さん、やたら威勢いいし、度胸あるし凄いね。
よく見ると、小柄で色黒な女子だった。見方によっては
可愛いと言える。しかし、やけに短いスカートを
穿いてるなあ。これはなんだ、彼女流の罠なんじゃないか、
ひょっとして?なんのために?などと思案しながら
男のほうを見ると、狼狽しまくって
「放せよ!!」と、抵抗しているのだが相変わらず
目が泳いでいる。ここまで目を泳がす人も見たことが
なかったし、人間の目って、ここまで泳ぐんだね!!
というその新たな発見に、感慨も一潮だった。

そうこうしているうちに、電車は新宿駅に到着した。
「逃げるんじゃないよ、アンタ!
誰か、こいつが逃げないように手伝ってください!」
扉が開く直前、彼女はボランティアを募った。
周りの乗客は、みんな無視。うわ、みんな知らん振りかよ。
それならばと、扉が開いた瞬間、わりと近くにいた
僕が男の腕を掴んだ。

「逃げるなよ。逃げても無駄だからな」
男は観念して、逃げる素振りも見せなかった。

やった、キマった・・・。

と思いたいところだったが、こういうシチュエイション
でなにを言うべきか他に全然見当がつかなかった僕は、
もうちょっとダーティーハリーあたりでお勉強しておく
べきだったと後悔しつつ、とりあえず男にそうつぶやいた。

女「ありがとうございます。逃げないように、
捕まえててくださいね。こいつ、ずっと触ってたんです」

真「ああ、はい。じゃあ、駅の事務室に連れて
いきましょうか」

とりあえず、男を駅員に引き渡したら、僕もお役御免だな。
早起きは三文の徳かどうかは定かではないが、軽く
人助けができたし、クロールしてる目も見れたし、
たまには悪くないもんだね。と、ちょっと誇らしげな
気分の僕だった。のだが、女性が突然

「じゃあ、男子トイレに行きましょうか」と言い出した。

はい???

男子トイレに痴漢の被害者と加害者で入って
なにをするんでしょうか?
新手のドッキリかなにかでしょうか、これは?
それともリンチのビザール・ワールドを絶賛実体験中
なのでしょうか、ええ?と動揺が隠せない僕。

真「へ?男子トイレで、なにを?」

女「警察に突き出すと、時間かかっちゃうから、
いやなんですよ。それが原因で今までも何回も
遅刻したんですよね・・」

いや、よねって言われても。

女「わ、男子トイレ入るのって、なんか恥ずかしいですね★」
と可愛い声で言いながらも、歩を緩めるどころか、
がんがん中に突き進んでいく彼女。

とにかく、僕は加害者の男の腕を掴みながら、
サラリーマンでごった返す男子トイレの中で、
彼女が口を開くのを待った。

すると、加害者の男に向かって彼女は突然こう言い出した。

「おい、財布出せ」



・・・・・・・・はい?

なんでここで強盗まがいの小芝居が始まるのでしょうか?

ぽかんとしながら、二人のやり取りをじっとながめていた。

女「警察につき出すのやめてやるから、代わりに
金出しなよ。あたしも会社に遅刻したくないし、
お前も警察に行きたくないだろ?だったら、金出しな」

あの、一気に僕は恐喝の片棒を担いでませんか?
ハリーキャラハンが一気にスメアゴルみたいな展開ですよ?
あれ、人として正しいことをしてたはずなんですが、
いきなりエンゼルハートですよ?

狼狽しながらも男は、「き、今日、お金ないんです・・」
と言い訳を始めた。ふーん、でも銀行のATMはもう
やってるけどね。と思ったが、口には出さなかった。
すると彼女が、

「ちょっと財布貸しな!」と言い、
最初は拒んでいたものの、諦めて彼女の言いなりになり、
男は財布を見せた。中には、1万円札が軽く10枚以上
入っているのが見えた。

「ふん。ウソつくんじゃねよ。ほら、早く出しなよ」

男は、1万円札を一枚女に差し出した。

うわ、そんなに出すの、この人?と思った瞬間女は、

「少ないよ。もう一枚出しな」

とか言ってるではないか。
なんて容赦ない人なんだろうか。本当にプロだったよ!
というか、すいません。僕もう退場してもいいでしょうか?
自分が犯罪者になったような気分なんですが。
ああ、でも、痴漢と女子を男子トイレに置き去りには
できないし・・。

周りからは、どう見えてるんだろ、この光景?
さっきからがんがん人ははいってくるけど、
誰も、なにも突っ込んでくれないんですが。

すると、女は男に向かって、

「この人にも、あげなよ」と僕のほうを指差しながら
言った。

いやいやいやいやいや、俺はいらないから!!
と拒否したのだが、既に全面降伏済みの男は、
僕の手に1000円札を差し出した。

「もう、痴漢なんてするんじゃないよ。分かった?」

そう女は捨て台詞を吐き、僕と一緒に男子トイレを後にした。

女「どうもありがとうございました。わたし、しょっちゅう
痴漢に合うんですよね。どうしてだか」

真「はあ」

女「あ、そっちですか?私はこっちに行きます。
やばい、遅刻しちゃう。それでは!」

真「はあ」

そしてなぜか千円札を握り締めた僕は、会社の事務所に
到着し同僚のF(プレデター似)に、
「痴漢捕まえて、1000円もらったんだけど」
と半ば放心状態で告げるのであった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

そして、僕が電車の中で生まれて初めてダイナミックに
転倒し尻餅をついたその朝、東口の改札前で
叫んでいた女性は、まさにあの朝の痴漢撃退女であった。

この日も、痴漢を捕まえたまでは良かったが、
誰も助けてくれなかったのだろう。
そして、駅員に突き出したまでは良かったが、調書を
取るために必死な駅員に追いかけられている
ところだったようだ。

「ねえ、大丈夫かい?」
すっくと彼女の前に立ちはだかった僕は、彼女を捕まえて
連行せんとしている駅員に豪快にキックをかまし、
彼女の手を力強く掴んで、そのまま二人で
新宿御苑のほうまで走り続けた。
これが、運命の出会いってやつか・・・。

なんてオチはつくわけもなく、
もう彼女には関わりたくなかったし、まあなんとか
なるだろ。と思い、僕は職場に向かった。


そして、その日の夕刊を読んで、日比谷線の脱線事故を
知ることになる。
事件が起こった時刻を見てみたら、それはまさに僕が
埼京線の中で転んでいた時刻とぴったりだった。

僕は、ただの尻餅で済んだが、そう遠くない場所で、
まさかそんな大惨事が起こってたなんて。

あれは、なんだったんだろうと思う。

なにかのサインだったんだろうか?
どういう意味があったのだろうか?
ただの偶然に過ぎないのかもしれないが、
なぜあのときに、そんな出来事が重なったのか、
僕は知りたかった。

そして、あの小柄な女の子は、今日も埼京線に
乗車しているのだろうか?
痴漢を撃退しているのだろうか?



あれから6年の月日が流れ、僕は、今ここにいる。

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