──大衆的な行動を拡げることが最大の課題──

 昨年戦争法を強行した安倍首相の本来の目標は明文改憲にあり、その扉を開けるためにも今年7月の参院選で参院の3分の2の議席確保を狙っている。消費税の軽減税率の導入を優先させたのも、予算案でバラマキを繰り返すのも、異次元金融緩和を続けるのも、政権保持に固執するのも、すべて安倍首相の〝悲願〟ともいうべきそうした目標を実現するためだ。

 昨年の戦争法案で盛り上がった反戦と平和への大衆的な闘いをさらに拡げることで、安倍首相の軍国国家への野望を封じ込めていきたい。

◆野望

 安倍首相は今年中の、あるいは自身の政権での明文改憲を諦めた、とも報じられている。

 安倍首相本人やその取り巻きの改憲強硬派は、昨年の初めまでは今年の参院選での国民投票同時実施にめざして改憲気運を盛り上げてきたはずだ。が、安倍首相の改憲戦略は、取り巻き連中の思いとは裏腹に順風とはいかなかった。

 第二次安倍政権発足時は、改憲要件を定めた憲法96条改訂に照準を合わせた。が、「裏口入学」との批判もあって頓挫し、いわゆる集団的自衛権での解釈改憲に軌道修正を余儀なくされた。

 昨年の閣議決定に続く戦争法の強行採決でいったん解釈改憲を強行した後には無理に明文改憲を強行する根拠が薄れ、改憲機運がしぼんでしまったという事情もある。現に、昨年秋に行った改造内閣のキャッチフレーズではアベノミクス第二ステージとやらの「一億総活躍社会」の実現を掲げ、経済への回帰を打ち出さざるを得なかった。それだけ戦争法を強行採決させたことへの逆風が強かったということでもある。

 こうした事情は、自民党憲法草案をいったん棚上げにしたことにも現れている。草案は野党時代の12年に自民党がまとめたもので、あからさまな国家優先主義で多くの批判が集中した。中身は昨年の戦争法をめぐる攻防のなかで焦点となった「立憲主義」を真っ向から否定するもので、自民党としても大上段には掲げられない、と判断せざるを得なかったということだろう。

 国会の憲法調査会を巡っても、正面突破を軌道修正する様な人事がおこなわれた。自民党憲法改正推進本部長だった船田元の後任に、安倍首相の取り巻きの強硬派ではなく部外者的な森英介をそえた。また国会の憲法調査会での議論が止まっているのも、改憲議論の仕切り直し余儀なくされた事情を物語っている。

 とはいえ、油断している場面ではない。参院選で自民党の補完勢力も含めて3分の2を確保すれば、安倍首相は再び明文改憲をめざして、暴走を始めるだろう。とはいっても改憲のハードルは低くはない。衆院こそ自公の与党で3分の2の議席を占めているが、参院では自民党単独では過半数を確保していない。現状は公明党も併せても135議席に過ぎず、3分の2の161議席を確保するには議席の半数の改選で26議席も増やさなくてはならない。このハードルを越えるのは簡単ではない。

 そこで安倍首相は、橋下おおさか維新の会への期待と連携を隠さない。橋下市長の任期切れの直後の昨年12月19日に、これ見よがしに東京のホテルで3時間半も会談している。11月におこなわれた先の大阪ダブル選挙で自民党公認候補が敗れても、党本部や地方組織とは違ってむしろ維新の会が勝利したことを喜んでさえいる。それもこれも、参院選での3分の2の確保を視野に、橋下おおさか維新の会による自民党別働隊としての動きとその議席に期待しているからだ。安倍首相としては、来年の参院選で自公の与党で3分の2を確保できるにこしたことはないが、仮にそれが実現しなくても、維新の会を合わせて3分の2の議席を確保したいと計算しているわけだ。当の橋下徹も、安倍首相が改憲に本気で取り組むなら出来ることは何でもやる、と、安倍首相の改憲姿勢への支持を隠さない。

 参院選での国民投票の同時実施自体は諦めたものの、安倍首相は参院選挙以降の改憲を諦めたわけではない。参院選までは、なんとか有権者をつなぎ止めるために、「経済回帰」での慎重な政局運営を図ってるということだろう。

◆戒厳令?

 その安倍自民党。96条改憲といった「裏口入学」ではないが、こんどは改憲の「二段階戦略」をめざしているという。本来の改憲目的はむろん憲法9条だ。棚上げしたという自民党の憲法草案では、9条は次の様に改訂するとしている。

  (平和主義)
 第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動としての戦争を放棄し、武力による威嚇及び武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては用いない。

  2 前項の規定は、自衛権の発動を妨げるものではない。
 第九条の二 我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮官とする国防軍を保持する。

 草案9条1項は分かりづらいが、自民党改憲草案(Q&A)では、「宣戦布告」を前提に行われる戦争のみ否定して、侵略戦争以外での自衛権の行使としての武力行使、それに制裁目的の武力行使を認めているとしている。〝自衛〟を掲げた戦争を肯定してしまえば、結局はあらゆる戦争が認められてしまう。安倍首相が心酔する岸元首相も言っていた様に、あの太平洋戦争ですら〝自存自衛〟のための戦争であり、また米国のアフガン・イラク戦争も自衛のための戦争となってしまう。要するに、自衛権を名目にして戦争もできる、そのための国軍(制約のない軍隊)も保持すると明文化したいというのだ。

 ただ自衛権を名目にした戦争は可能だと詭弁を弄しても、いきなり憲法9条改訂を提起すると国民世論の批判が大きく拡がることが予想される。そうした反撥や抵抗を考慮し、最初は環境権条項や自然災害などへの対処を名目とする緊急事態条項の創設で改憲を実施したいという、いわゆる「お試し改憲」というわけだ。そこでの思惑は、一旦憲法が改定されれば、「改憲慣れ」して次の9条改憲への抵抗が薄められるのではないか、というものだ。有権者の「慣れ」を当てにするそうした「お試し改憲」自体、有権者を小馬鹿にしたものであり、呆れかえるばかりだ。

 ただし、その一回目の改憲で浮上している緊急事態条項、環境権,財政規律条項も、そんなに当たり障りのないものとはとても言い難い代物だ。環境権や財政規律条項についてはどうしても憲法に入れなくてはならないものではないし、緊急事態条項については民主主義の土台を揺るがす危険な性格を秘めているからだ。

 自民党が草案に書き込んだ緊急事態条項とは次の様なものだ。

 (緊急事態の宣言の効果)
 第九十九条 緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができるほか、内閣総理大臣は財政上必要な支出その他の処分を行い、地方自治体の長に対して必要な指示をすることができる。

 草案はこの条項を緊急事態条項としているが、その意味合いは諸外国でも見られるいわゆる「戒厳」と地続きのものだ。広辞苑によれば、戒厳とは「戦時・事変に際し、行政権・司法権の全部または一部を軍の機関に委ねること」とあるが、その基本的な性格はいわゆる国家緊急権の行使だ。

 自民党改憲草案(Q&A)では、戒厳令とは違うと言っているが、実質的に憲法の効力が停止され、法律と同等の強制力がある政令で行政権力が市民を縛ることが可能になる。この緊急事態条項の創設は、権力を縛るはずの立憲主義のもとで、逆に憲法を否定する行政権力による超法規的措置を可能とするもので、立憲民主政治の基本的な矛盾と限界を象徴するものでもある。災害対策などを名目とする緊急事態条項とは、ソフトな言い回しにもかかわらず本質において民主主義と両立しがたい条項の創設なのだ。

 国家緊急権とはなにか。簡単に言えば、国民の意思にもとづく政治・行政を建前にしているはずの民主政治のなかで、国家を国民から独立した法人として捉え、国家が国民の意思に由来しない統治・施政をおこなう、というもので、こうした条項は、そこでは憲法に規定された国民の権利が時の政府によって停止、禁止、要は否定される。戦前の軍国主義の臭いが色濃く感じられる代物なのだ。実際、明治憲法では 第14条に天皇ハ戒厳ヲ宣告ス、とあった。その他、8条、31条、70条に天皇による専権規定がある。こうした立憲主義の原則に反する、戦前に回帰するかの改訂を「お試し改憲」で創設する、というのだ。〝災害対応〟でごまかされていい話ではない。

◆大衆行動

 安倍首相が明文改憲を諦めたと報道されたもう一つの理由は、先の戦争法を強行する過程で予想以上に膨れあがった国民世論の批判の声だ。ていねいに説明するといっても、もともとこじつけに過ぎない解釈への理解や支持が一向に拡がるわけもないし、憲法学者などの「憲法違反」という批判にも直面した。その上、これまで政治の舞台に登場しなかった普通の若者(学生など)、ママの会、学者の会など、新たな反対勢力も登場し、その行動は全国に拡がった。こうした事態に安倍政権は体力を奪われ、戦争法という解釈改憲でさえやっと成立させた、というのが実情だった。これが明文改憲、9条改憲だとなれば、反対運動もこれまで以上に拡がるだろう。

 その明文改憲には二つのハードルがある。一つは衆参での3分の2以上の賛成で改憲の発議が出来ること、第2は言うまでもなく国民投票の実施とその過半数による承認である。仮に国民投票で過半数を獲得できない事態になれば、改憲の勢いは一気にしぼんでしまう。10年かあるいはそれ以上、改憲の発議は出来なくなる。いったん否定されれば内閣総辞職は避けられず、与党、自民党内に限っても、再度改憲を政治日程に持ち出すことに懐疑的、あるいは反対の声が出てくる可能性もある。だから、改憲発議と改憲国民投票を実施するには、不退転の決意と体勢づくりが必要になる。果たして今の安倍政権にそれができるのか、あるいはそれを持たせていいのか、が問われているわけだ。参院選で3分の2,あるいはそれに近い議席を安倍自民党に与えてしまえば、必ず改憲策動に乗り出してくるだろう。

 安倍首相の改憲の野望を放棄させるには、改憲反対の理論武装や共通理解の形成も不可欠だが、何より国民的な反対運動の拡がりをつくることが一番だ。戦争法の成立で一旦は小康局面だが、年明けの通常国会が始まれば、再び大きな政治焦点として浮かび上がる。

 参院選やその後の安倍自民党打倒と明文改憲阻止の闘いは、私たちにとって今年最大の課題になるだろう。今から態勢を整え、圧倒的な反対運動をつくりあげていきたい。(廣)