世間でよく聞くモーツァルト神話の一つに、モーツァルトの音楽を聴くことで知能が上がるといういわゆるモーツァルト効果があります。

今回はモーツァルトによる音響熟成の話題です。


・事の発端

なぜモーツァルト効果が騒がれるようになったか。

事の発端は1993年にイギリスの権威ある科学雑誌Natureにあるレポートが報告されたことに始まります。

ローシャー(Rauscher)らによりモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ ニ長調」K.448を10分間聴いた直後に空間的知能を測定したところ、IQで8-9ポイントほど上昇したという記事です。

さらに、1998年には追試としてネズミに対して妊娠・分娩後にモーツァルトを聴かせたら迷路の探索学習においても効果が得られたという報告を載せました。無音やリラクゼーション音楽に比べて効果があったというのです。そうすると、世間は天才モーツァルトの音楽のマジックとばかりに湧きました。

 

しかし、その後の検証が多々行われるにつれて、モーツァルトの音楽が知能向上に万能というわけではないという反論が出てきました。

空間認知において瞬間的にアップしたのは、実験に使った音楽が長調の音楽でテンポの軽快なクラシック音楽だったから効果が得られたのではないか、ということに落ち着きつつあります。

Schellenbergらはシューベルトの幻想曲ヘ短調でも同様の効果が得られたとし、逆に、テンポの遅い曲では効果がなかったと報告(Husain, 2002)、さらには朗読でもポピュラー音楽でも効果があることが報告されました。

 

どうやら、モーツァルトの作品に限らず、ある程度の軽快なテンポと明快な曲想により脳の覚醒と気分の心地よさが上がったことで効果があったとの見方ができます。最初に提唱したローシャー自身も2009年にはモーツァルトの音楽自体と言うよりも、覚醒と気分によるものらしいと考えを改めています。

 

モーツァルトの曲のイメージは、明るいとか上品とかポジティブなイメージがあり、たしかにそのような曲がモーツァルトの一つの要素ではあります。でも、モーツァルトの曲でも暗い曲もあれば聞いてつまらない作品もあります。また、モーツァルトでなくても同時代のハイドンやベートーヴェンの初期、シューベルトの初期の似たような明るく快活な音楽により、ポジティブ感情が得られるのであればよいわけです。
モーツァルトの曲が奏でる音色に秘密があるという言及する怪しい宣伝文句もあります。しかし、ピアノはピアニストが作る音色であり、管弦楽曲はオーケストラがつくる音色であって、モーツァルトの固有の音色というのは存在しません。仮に、「モーツァルトのような上品な音色」という表現をするならば、その音色はオーケストラが上品に演奏音を聴かせてくれただけで、同様にシューベルトやショパンの音楽においても上品な音楽は聴けるわけです。

 

結局のところ、モーツァルトの音楽のマジックではなく、モーツァルトに「代表されるような」明るく快活な音楽が、聞く人に覚醒と快気分を呼び起こし好影響に結びつくということです。


ただ、モーツァルトが何らかの良い結果を導くと思って聞くことは、必ずしも悪いわけではないとも言えます。

いわゆるプラシーボ効果というものです。

これは偽薬といわれ何の効果もない薬を効果があると思い込んで服用することで、症状が軽くなったり回復したりする認知過程です。この点では、食べ物や飲み物を美味しくいただいたり、胎教として聞いて満足感を得たりするという点では良いといえます。

ただし、科学的な証拠はありませんので各自でその点を踏まえてご購入ください、ということになります。

 

プラシーボ効果の最たる例として音響熟成があります。

モーツァルトを聴かせて作った○○というものですが、あくまでも気分の問題であり科学的にモーツァルトの音楽ゆえの優位さがある商品ではありません。

なんとも夢のないつまらないことを言うもんだとお思いかもしれませんが…

いいんです!美味しい!と思って頂きましょう。

こう書いている筆者もついその手のお酒を買いますので。

 

・モーツァルト効果を科学的に検証する

と、感覚的に美味しいかどうかの評価(官能評価)では納得いかないのが研究者魂(ひねくれ根性ともいう?)。

じゃあ、実際に試そう!ということで学生と実験してみました。

ネットでビール作りのキットが売られているので買ってきました。

ビールの素と砂糖を鍋に入れます。

酵母をいれて二つの容器に均等に分けます。

ここで酒税法に触れるので水でアルコール度1%に薄めなければいけません。

片方の容器にはトランスデューサーという音を振動に変える機械を取り付け、

モーツァルトを10日ほど昼夜ずーっと聞かせました。

モーツァルトは交響曲からピアノ曲、フルート、声楽…いろいろミックス。

音量はマックス。

あ、でも、実験目的は音響効果がないと否定することです。

 

出来上がったビールをみんなで味見すると・・・

確かになんか違う気がする。

でも、みんなどちらが好きか嫌いかは分かれました。

音楽を聞かせた方がまろやかとか、聞かせない方が濃いとか、シャープとか。

もちろんどちらが音響熟成ありかは知らせないブラインドテストです。

某ビール屋さんに依頼して成分分析も行ってみたのですが、差がわずかにありました。

お、じゃあ効果があるのか!?

でも、実験の手順を振り返ると、いくつか問題点が出てきました。

まだ効果があると証明するには至らない感じです。

 

発酵段階で振動を与えることは何らかの影響があるのではないかとの話もあります。

それも一理ありな気もします。

しかし、スピーカーからの音は効果なく、味の違いも誤差レベルないんじゃないかと思います。

まだ否定的。

というのも、音は水中での減衰がとても大きく、10cmも先に行くとほぼ聞こえません。

音楽が酵母まで届くとは思えない・・・

 

ということで、次回は問題点を解決しつつ精度や分析項目を精査する予定です。

#方法や分析の詳細はここではお伝え出来ないのですが・・・

 近く論文などで公表できるようにしたいと思います。