2018年11月に日本音響学会音楽音響研究会にて、招待講演の話を頂き題目にあるような内容のプレゼンをしてきました。

いろいろ思うところはあり、たくさん話すことはあったのですが、講演時間の制限は

無制限ではないので、残りはこうやってブログなどで書こうかなと思います。

ストラディヴァリ等が活躍したイタリアのクレモナを始め、世界でどの様なヴァイオリン研究がなされているか、楽器の構造や製作と音響の関連といった基礎知識も踏まえながら紹介していきたいと思います。

(論文としてまとまった内容で読むという方はこちら

 

この回では、ヴァイオリン製作における音響研究のイントロを書きたいと思います。

 

ではでは。

なぜストラディヴァリを始めグァルネリ一族(ファミリー、スクールともいう)や

アマティ一族のように、17、18世紀のクレモナで作られた楽器が人気なのでしょうか。

これらのオールド・ヴァイオリンは「良い音」がすると言われ、美術品としての価値もあります。

 

ここで、「良い音」という表現ですが、これが大変難しい問題です。

科学的に「良い音」とは何かと、数値で表すことができないのです(定量的評価)。

これは、絵画や人物の美しさや、料理やワインの美味しさを定義するのが難しいのと同じで、

人それぞれ基準や尺度が違います。


ヴァイオリンの音響研究の多くは、楽器の振動や放出された音のスペクトルの解析をすることから始まります。

ヴァイオリンの板がどの周波数でよく共鳴するのかを調べる固有振動(モード、mode)解析や、演奏音やタップ音をマイクで録音してどの周波数(帯)の成分が多く含まれるかを調べる「スペクトル解析」は楽器の特徴を分析する第1歩となっています。

 

そして、「良い音」の研究は多くの学術分野にまたがるところがまた学者のハードルを上げていて、ホール音響としての建築学、人間の音がどう音を感じるかといった認知科学や心理学などにまで関連します。

ただ、こういった研究のためのデータ収集と分析はとてつもなく変動要因が多いため、これまで世界の楽器研究者が精力的に研究してきましたが、なかなか決定的な結論は出ていません。

 

筆者は今(2018-2019年)イタリアのクレモナにいます。ミラノの東、電車で1時間ちょっとの小さな町ですが、ここにはヴァイオリン博物館(Museo del Violini)があります。https://www.museodelviolino.org/en/

 

内部はこのようなおしゃれな展示室に、歴史的にも価値のある楽器がずらりと並んでいます。

筆者ですが、その博物館内のラボにて日々、カフェを・・・いや!研究をしています。

3Dスキャナでヴァイオリンの裏板の形状を読み取っているところです。

以前、ラボの紹介はこのブログでもしましたが、時々ラボ内に博物館の所蔵楽器が計測にやってきます。ミラノ工科大学とパヴィア大学の研究チームがヴァイオリン博物館と共同で、クレモナに残る歴史的名器の音響とニスの研究を行っています。
で、ヴァイオリンの振動モードの解析というと、かつてはクラドニ法と呼ばれる小さな粒をヴァイオリンの板に撒いて、振動を与えてモード解析をするという方法が行われてきました。

しかし、この方法はヴァイオリンをパカッと開なければならないため、非常に楽器に対するダメージが多く、現在、歴史的に貴重なヴァイオリンにはこの方法は使えません。

ダメージを与えない(非侵襲的)音響特性を測る方法を探っており、今は近接音場ホログラフィ法や上のような3Dスキャナで取り込んだ形状データを基にした数値シミュレーションによる方法が取られています。他の研究機関では人間ドックさながらにCTスキャナに入れられたりします。

#こちらの映像は素晴らしい!(Strad 3D: A.Stradivari, Benvenuti 1727, micro-CT Scan)

 

現代はどんどん先端科学がヴァイオリンを解明をしていこうとしています。

職人の勘、も大切ですが、両方の経験をもつ私としては、科学技術による解明が

ヴァイオリン製作の現場にもっと役立てばよいな、という思いでこの研究をしています。

現実は、職人の期待と科学的研究の成果がまだうまく融合していないようです。

学者の研究的興味だけでなく、製作の現場、楽器を扱うディーラーや博物館、そして研究者がもっと連携してヴァイオリンの研究に取り組めれば、もっと多くのことが分かり、発展するのではと思います。

(これが招待講演で言いたかったところ)

 

さて。ここで、改めてヴァイオリンとは! 

という解説をみっちり書くと長くなります。

書くのも読むのも大変ですし、すでに他の著書やサイトでもたくさん書かれています。

とはいえ、まったくスキップするのもなんなので、、、、

次回はヴァイオリンの製作と研究の歴史について触れたいと思います。