クレモナ研究生活で、少しずつ分かってきたことや、勉強していることを書き始めてます。

難しくなく、なるべく専門用語も平易な表現に・・・がんばります。


では。

クレモナの博物館にはミラノ工科大とパヴィア大学の2チームが常駐しています。

今回はミラノ工科大のヴァイオリンの研究について論文をベースに簡単にまとめてみました。


ミラノ工科大では博物館の所蔵ヴァイオリンの音響研究を主に携わってきています。
音響学というと、楽器の振動から、楽器の音色であるとか、楽器から放出される音の広がり、
そしてホール内の反射、人間の聴覚や認知まで、比較的幅の広い分野に渡ります。

ヴァイオリンの音は次のような手順で私たちに伝わります。

1.楽器の弦が弓の毛で擦られ、エネルギーが与えられる

2.本体が振動・共鳴する

3.周辺の空気に圧力変動が生じて

4.耳の鼓膜を揺らし、聴覚神経細胞を通って脳で知覚する


さて、ミラノ工科大の教授のSartiとAntonacciのチームではコンピュータの力を借りてこれらの実験と分析を行っています。


 

ミーティングルームにて(中央右Sarti氏、左端Maragodi氏、右端は日本人の製作家永石氏)

# 活動の全体はこちらのHPに紹介されています(英語)。
http://www.museodelviolino.org/en/laboratori-scientifici/laboratorio-di-acustica-musicale/

# このリンク先の写真などを見ながら以下の話を読む方が分かりやすいと思います。


■Vibrometric Analysis

楽器の振動解析では、サンプルとなる楽器を3Dスキャンして立体データを取得し、それを有限要素法(FEM)という手法で固有振動をシミュレーションします。

固有振動を調べることで、物体がどの周波数で振動すると共鳴現象が起きるかを知ることができます。

http://citeseerx.ist.psu.edu/viewdoc/download?doi=10.1.1.709.1874&rep=rep1&type=pdf


昔の研究ではクラドニ法といって楽器の表板や裏板をはがして裏側に小さな粒子を置いて
そのパターンで振動モードを測定していました。しかし、博物館にあるような文化財・芸術品といった扱いのヴァイオリンは、分解して計測することはできません。


そのため楽器にダメージを与えることなく(非侵襲的といいます)、データを得てそれをコンピュータで解析することが最近の常套手段となっています。

現在は演奏による変形を考慮した分析や、さらにマイクをたくさん並べて(アレイマイク)録音し、
その音源から逆に楽器の振動がどうであったかを求める手法を検討しています。


■Acoustic radiance analysis

楽器から出た音が、どのように放射されているかも分析しています。

http://home.deib.polimi.it/tubaro/Conferences/mucci2015.pdf

放射の分析をするには、楽器の前に格子状に沢山置かれたマイクで録音し、コンピュータを使って行います。どの方向にどの周波数がどれだけの強さで放出したかが計測できます。
学会での発表の資料によると、低い音域では全体的に広がる傾向や、高い音域ではある方向に強く出る(指向性がある)ことや、同じ製作者では似ている傾向がある(まだ、かもしれないというレベル)、といったことなどが分かってきたそうです。


# この実験では、いろんな方向を向いていろいろと弾いて録音されたとか(^^♪ ビブラートをかけたり、スタッカートにしたりといろんな奏法を試したので、より実際の演奏に近い音響を測定していることも特徴でしょう。


■Timbral analysis

物理的な振動や音波を計測したとして、その音響情報が私たちの知覚として、どのように脳で処理されるのでしょうか?

ここが、楽器の音色の印象にかかわることで、これがほわっとした領域で、なかなか確定的なことが結論付けにくいことでもあります。本当は大量のデータで統計的に処理されるべきなのですが、楽器の音色研究においては、サンプル数が少なく、いつも困るところです。

認知科学の分野として、音響情報と音色の関連(相関)を付けようという試みをしています。

https://home.deib.polimi.it/setragno/files/EUSIPCO2015.pdf

http://home.deib.polimi.it/setragno/files/AES2015.pdf


これらの3つがミラノ工科大の大きな柱となっているようで、関連する研究がいくつか学会等で発表されています。