室生犀星「緑のかげに」 | 新サスケと短歌と詩

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室生犀星・詩集「忘春詩集」より、次の作品を紹介する。


  緑のかげに

    室生犀星


みな緑のかげをさまよふ

あをき垣根にそひ うつ向き楽しげに

われ 街のくらきやどりに暮れし日も

ひとりの少女のおとづれとてなかりし

いまの世のわかきひとびとら

白き手をつなぎ

垣のかげにみなたのしげに語れり


われはかくあらんことを願はず

されどかくあらざりしことの

わが思ひをつんざくことの何んぞ激しき


底本は、岩波文庫「室生犀星詩集」、昭和40年12刷。


若い時代に、異性の友達のいない事は、淋しい事だ。

しかし結婚して伴侶を得れば、それも忘れる。

犀星の悔しみは、尋常ではない、と僕は思う。

蛇足だが、拙作を1首。

青春に女性の友のあらざりし事は哀れかあるいは誇り

歌誌「コスモス」2008年3月号より。