こぐま星座「地蔵」 | 新サスケと短歌と詩

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短歌と詩を公開します。

こぐま星座さんの詩集「なんなはん」(第2刷)より、「地蔵」を転載する。


  地蔵

    こぐま星座


地蔵さんはたんぼとたんぼのあわさいの石なの小山のうえに座ってなる

かけた鼻のまんまでれんげ草のあっちゃの浄法寺山のほうを見ている

父ちゃんのおじじのほのまたおじじの昔から

村のもんらは泥のうえをほうたるくんてにして

この石なをいけえのもちええのもみんな

ひとつずつたんぼのなかから拾うてあげた


ちっとでもたがやさんならん

ちっとでもたがやしていいたんぼにせんならん

ちっとでもいいたんぼにしてようけとらんならん

ちっとでもいいたんぼにしていい米つくらんならん

ちっとでもいい米つくってようけださんならん

ちっとでもいいもん食わせんならん

ちっとでも食わせてうつくそう見せんならん

ちっとでもうつくそう見せていいもん持たせんならん

ちっとでもいっけえもんにせんならん

ちっとでもいこうして売らんならん

ちっとでもぜんにせんならん

ちっとでもぜんにして残していかんならん

ちっとでもういくつな目にあわんならん


まだちぶてえ春の風んなかで

石なのひとつひとつから

泥まみれで蹴つまずくんてにして

この村で死んでいったもんらの

「ちっとでも ちっとでも」っちゅう声がきこえてくる


ぼろぼろの着物を着た

泥まみれの春の亡霊たちがあらわれる

亡霊たちは地蔵さんのまわりで口々に

なにやらブンブンうなっている

地蔵さんはへんがら目のまんまで

「ほうか ほうか」ただうなずいている


ほの横をトラクターが轟音をあげて

たんぼを起こしはじめている