万葉集から


天平十一年九月の往来の歌



坂上大嬢が大伴宿禰家持に秋の稲の蘰を贈る歌


わが業れる 早稲田の穂立ち 造りたる

蘰そ見つつ 思はせわが背


わがなれる わせだのほたち つくりたる

かつらそみつつ しのはせわがせ


私の仕事の早稲田の穂で作った蘰を見て私を思い出してぬ、君


稲穂を蘰にしたのだから、輪の形にしたのだろう

輪は、枝を輪にするように、そこに戻って来るという願いを込めるもの


別の詠みをすれば


「わがなれる」は「和歌成れる」

「わせだのほたち」は「我せ他の百絶ち」

「つくりたる」は「付く理足る」

「かつらそみつつ」は「彼連らそ見つつ」

「しのはせわがせ」は「四の葉背和歌せ」


四文字目の背だから、五文字目を、詠めば、「るほるみわ」で、後から詠めば、

「我見る欲る」だから、逢いたいとなる



大伴宿禰家持が応えた歌


吾妹子が 業と造れる 秋の田の

早穂の蘰 見れど飽かぬかも


わぎもこが なりとつくれる あきのたの

わさほのたつら みれどあかぬかも


君が業と作った秋の田の早穂の蘰は、見飽きない


別の詠みをすれば


「わぎもこが」は「吾妹子が」

「なりとつくれる」は「成りと告ぐれる」

「あきのたの」は「空きの他」

「わさほのたつら」は「「わさほ」の絶つら」

「みれどあかぬかも」は「見れど飽かぬかも」


先の坂上大嬢の歌から「わさほ」を除くと


「□がなれる」

「□せだの□たち」

「つくりたる」は

「かつらそみつつ」

「しのはせわがせ」


から、先と同じ部分を詠めば、「わみるる」から「我見るる」だから、逢いに行くこととなる



また、身に着ていた衣を脱ぎ、家持に贈った歌


秋風の 寒きこの頃 下に着む

妹が形見と かつも思はむ


あきかぜの さむきこのごろ したにきむ

いもがかたみと かつもしのはむ


秋風が寒いこの頃、下に着るこの衣を、見て私を思い出して


別の詠みをすれば


「あきかぜの」

「さむきこのごろ」

「したにきむ」は「下に来む」

「いもがかたみと」は「居もが片見と」

「かつもしのはむ」


三句と四句から

下の部分だけでも意味が通じる


「□□かぜの」は「風の」

「□□□このごろ」は「この頃」

「□□にきむ」は「に来む」

「□□□かたみと」は「固みと」

「□□□しのはむ」は「思はむ」


寒くなったが、会いに来るのだから、着るものを一枚増やして、暖かくして来てということだろう


「固む(かたむ)」は、身にしっかり着けること