読書:山と渓谷社「山怪 青」田中康弘
日本全国の山での不思議な話の集大成。
筆者が日本中を歩き回って現地の人を取材して収録したもの。
今回はシリーズ第5弾で最終作となる。
全部読んでいるが、
第5弾「青」は背筋が凍るようなゾッとする話はほとんど無く、
かつて日本の山奥では普通に起こっていたと思われる、
狐や狸に化かされる話や火の玉や異様な発光現象の話が多い。
古き良き日本の田舎の伝承を踏まえた上での実体験談となる。
都市部で生まれ育った私や娘が「狐か狸に化かされた話」と聞くと、
思わずクスッと失笑してしまうほどユーモラスな話題に思えてしまう。
だがその実態はかなり深刻なケースもあり、
東北地方の農家出身の母は「狐か狸に」と聞いても笑わない。
むしろ深刻な表情をしたりする。
この一連のシリーズを読んでいると、
山で体験する不思議な現象を、
人はそれをあくまでも「狐か狸に化かされた」としているだけであり、
実は不思議な事に全く変わりはないのだ、と言う事実に都市部の人は気付けない。
おそらく最新の脳科学の世界では説明のつく事態もあるだろう。
だが、そうは行かない話もあり、
現代科学の限界を思い知らされる本でもある。
では実際の具体例を1つ挙げておこう。
ある農村部の田んぼの横で、
近所のお爺さんが何やら叫んで棒で叩いているのを目撃した人。
「何をしているのか?」と聞いたら、
「狐がいて悪さをしたから棒で叩いて殺そうと思っている。
でもまだ死なないっ!!」と言って叩き続けていたそうだ。
叩いている場所を見ても特に何かいるようには見えない。
しかし急いでいたのもあり先に進んで行ったと言う。
その晩、お爺さんの奥さんが血相を変えて、
その目撃者の家に来たと言う。
「うちの人を知らないか?まだ帰ってないんだっ!!」と。
年寄りが山間部で夜にまだ帰らないと言う事態は即座に命に関わる重大問題となる。
そこで村中で大騒ぎして捜索を開始した。
その目撃者はピンと来るものがあったので、
村人達が向かった山中には行かず、
先ほどの田んぼに向かって行った。
すると、いた。
そのお爺さんはまあ夢中になって、
「狐がまだ死なない」と言って棒で叩き続けていたと言う。
何を言っても聞かないため、
村人達と協力して強引にその場から引き離したと言う。
その夜、お爺さんは熱を出してうなされていたらしい。
そうして「狐が来ている。狐が大勢来ている」と譫言のように言い続けていたと言う。
村人達はホッとしたと同時にまだ狐がと言い立てる老人に苦笑していた。
だが翌朝、村人達は愕然となる。
老人の家の周囲には無数の狐の足跡があったと言う。
これをどう解釈したらいいのか?
おそらく最先端の脳科学はお爺さんの脳内で起こった妄想とするのは簡単に出来るだろう。
だが村人達が目撃したリアルな狐の足跡の説明は出来ない。
山ではこの種の事が今でも割と多く起こっているのである。
余談:
高尾山。
ミシュランの三ツ星に掲載されて、
今や大勢の外国人観光客が押し寄せる場所。
だが山岳ガイド達の間では普通に目撃されている現象がある。
それは高尾山頂上から人がほとんど行かない、
奥高尾縦走路に夜に入り込んでしまうと、
かなりの確率で目撃してしまうお姫様の姿となる。
戦国時代の衣装を着た女の人が向こうから歩いて来ると言う。
鎧武者姿の男もいると言う。
「陣馬山」「堂所山」「小仏城山」・・・・・
戦国時代、合戦のあった場所だと言う。
余談2:
あれはまだ登山再開をする2022年よりもかなり前の事。
美術館・博物館巡りを盛んにしていた頃。
いつものように休日多くの美術館を周った後の夕方、
白金自然教育園に行った。
何を撮りに行ったのかは覚えていないが、
デジタル一眼レフカメラを携行し、
いつものように撮影を楽しんでいた。
東京都港区白金。
シロガネーゼで有名な都心の超一等地。
その一角に大昔の武蔵野の面影を残している場所がある。
誰かに見られている?と誰もいない園内で強く感じた。
そこで周囲を見回したら、いた。
アップした写真がその時に撮影したものだ。
狸だ。
狸がこちらの様子をそっと伺っていたのである。
昔の人は夕暮れ時の帰路を急ぐ時に狸に出会い、
その時何らかのトラブルに襲われた時。
「狐や狸に化かされた」と表現したんだろうなと思われた。
そんな雰囲気を狸は充分に纏っていた。(笑)
