主夫の料理に時間をかけるだけが能ではありません。最近は外出から帰って20分でテキパキ作って、サッと待ち構える女性の前に出す場合も多くなりました。今日などは、帰宅するや、おなかが空いたわ、今朝はシリアルを食べてすぐ出かけたので、もうペコペコよと言って、「ホジュン」を見るためどっかとテレビの前に坐られてしまったので、頭の中で思っていた料理をパッと切り替えて別の料理に変え、「ホジュン」を見始めた麗人の目の前に出すまで15分とかかりませんでした。簡単料理でも結構いけるレシピがものになりつつあるかも知れません。

 

 だが昨日は違いました。2時間半ほどかかって夏野菜たっぷり牛肉のワイン煮込み料理を作って、さるすてきな方から頂戴した、先ほど焼きあがったのよとお聞きした自家製パンをお皿に乗せて夕食に出しましたが、最近ではまれに見る豪勢な夕食になりました。もしお皿とテーブル・クロスさえいいものにすれば、何しろ煮込み牛に夏野菜の種類が九種類、それにニンニクを加え、トマトケチャップとソースで味付けし、あらびきブラックペッパーを入れて、たっぷり入れたワインで2時間じっくり煮込み、こんなうまい料理は、以前にブルゴーニュのワインのメッカ、ボーヌの町で食べた鳩の料理やエスカルゴの料理、そしてコルマールのレストランでいただいたアルザス地方の家庭料理のほか、フランスでもどこでも食べたのを思い出せません。もしブルゴーニュの顔なじみのあの田舎農場が作る赤ワインとチーズをこれにつければ、今日一日の疲れも暑気も吹っ飛ぶこと請け合います。こんな老いの日々があるのなら、あの時、ワインをダースで持って帰るべきでした。ええ、わが家では時には領主のように、時には下僕のように、また時には乞食のようなものさえ頂いて、万民の味と苦しみとを味わっています。

 

 昔は、主婦が帰るや座りもせずに台所に立って夕食を作ってくれるのを見て、この人は生来タフな人なんだと愚かにも思うだけでそれが当り前のことでした。今は、自分は汗をかきつつ帰って来て、シャツもズボンも靴下も脱ぎ捨て、しばらく強風の扇風機でお尻と股に風を送り込んで汗を乾かす―この書くのもはしたない行為が夏のわがルーチーン的な風景になっていますが、いや~、この涼風がたまらない―のですが、イチジクの図柄の薄いパンツだけで台所に立って食事を作ります。

 

 という訳で、主夫の最初の一年程の料理は女性的な風合いのものが多かったですが、最近は漁師たちが褌一丁で船上で作る男料理風のものが多数入って来ました。とはいえ、フランス料理以上の手を掛けた料理も出るのですから、男性女性入り混じってブレンドされたいい味が出ている気がします。

 

 8月7日、今年は今日が立秋とか。今日から秋料理と行きましょう。でも、秋料理に欠かせない今年のトウモロコシが格段に高くて品質がまったく良くない。それに枝豆も、ところてんもこの間もういただきました。となれば、桃やブドウやナシやクリなどの味覚をデザートで味わうことになりますが、そんなものは今のところわが家では手が出ません。本当に高いです!。地球温暖化とロシアのウクライナ侵略がますます憎くなるほどに本当に高いです!

 

 という訳で、昨日、20%引きで買っておいた赤魚の粕漬で今日の夕食は決まりです。副菜は今冷蔵庫の中をよく見てから決めましょう。主夫の大事な心構えは、時々冷蔵庫の中に何があったかをしっかり確認しておくこと。すると料理人の心が整理されているので作りやすく、買い物にも便利ですし、調理にもうまいやり繰りができるというものです。

 

 「ある日のこと、ヤコブが煮物をしていると、エサウが疲れきって野原から帰って来た。エサウはヤコブに言った。『お願いだ、その赤いもの(アドム)、そこの赤いものを食べさせてほしい。わたしは疲れきっているんだ。』」(創世記25章)