他の自動車メーカーではなく、テスラの株を買う理由はただ一つ…それはEVビジネスではない

Matthew Fox (翻訳:大場真由子、編集:井上俊彦)

過去数十年間、ずっと投資家に優しくなかった業界で、テスラは今競争をしている。

ゼネラルモーターズ、フォード、ホンダ、メルセデスの株価は10年以上前と同じ価格で取引されている。

テスラ株に関して言えば、買うべき唯一の理由は電気自動車事業とは何の関係もない。



投資家たちはテスラ(Tesla)の電気自動車の納車台数が継続的に伸びていることを喜んでいる。同社の株価は2023年初めから約140%上昇し、評価額は一時9000億ドル(約125兆円)を突破した。

だが、調査会社データトレック・リサーチ(DataTrek Research)の共同設立者、ニコラス・コラス(Nicholas Colas)が2023年7月19日に発表したメモによると、現在の水準でテスラ株を購入する理由はただ一つしかなく、それは電気自動車事業とは何の関係もないという。

老舗の自動車メーカーの現在の株価から分かるように、自動車業界は競争が難しい。フォード(Ford)とメルセデス(Mercedes)の株価は1990年代と同じ価格で取引されており、ホンダは2006年1月の水準で、ゼネラルモーターズ(General Motors)は2013年8月の水準にある。

老舗の自動車メーカーが自社車両を電気自動車に移行しているにも関わらず、毎年数百万台の自動車を販売するだけの自動車会社に投資家が報いていないのは明らかだ。

したがって、テスラ株に関して言えば、同社の電気自動車の売上だけを見てはいけないとコラスは言う。

テスラを評価額9000億ドルで購入し、さらなる株価の上昇を期待するには、投資家たちは同社の自動運転技術が、アーク・インベスト(Ark Invest)のキャシー・ウッド(Cathie Wood)がよく口にする「ロボタクシー構想」が実現可能な真の自動運転の域に近づいていると信じる必要がある。

コラスは、テスラの現在の市場価値の約6000億ドル(約83兆円)から7000億ドル(約97兆円)は、「自動運転に関するコールオプション」だと見積もっている。

「イーロン・マスク(Elon Musk)自身も、この技術がなければテスラの価値はほとんどゼロだと話している。自動運転の準備が整ったならば、テスラは最初に、あるいは少なくとも早い段階でそこに登場するはずだ。これは少なくとも1兆ドル(約140兆円)規模のチャンスだ。しかし、真の自動運転車を作ることは、とてつもなく難しい挑戦でもある」とコラスは話す。

テスラの現在の市場評価の残り2000億ドル(約27兆円)から3000億ドル(約41兆円)は、同社の電気自動車事業に割り当てられており、これはトヨタの現在の市場評価に匹敵する。

トヨタもテスラも、「20年後もほぼ確実に自動車を製造しているだろう。しかし、その他の自動車会社については、同じことを言う自信はない。これからの20年は、この業界はそれだけ厳しいものになる」とコラスは言う。

つまり、もしテスラが完全な自動運転技術の実現に失敗した場合、コラスの評価モデルに基づいて見ると、同社の株価は約70%下落してしまう可能性がある。

「投資のポイントは極めて明快だ。マスクと彼のチームが近いうちに真の自動運転車を実現できると確信できる場合にのみ、昔からある自動車株を避けてテスラに比重を置くということだ」とコラスは話している。