袋小路の国産原発輸出、三菱重などトルコ計画断念

 
政府や三菱重工業などの官民連合がトルコの原子力発電所の建設計画を断念する。福島第1原発事故を機に安全対策コストが跳ね上がり、官民一体で進めてきた原発輸出は袋小路に入った。新設が見込めない国内は事業縮小が相次ぎ、次世代の原子炉開発も暗礁に乗り上げている。日本の原発事業を支える技術力の維持に黄信号がともる。 
 

トルコでの原発計画は2013年に安倍晋三首相とエルドアン首相(現大統領)の良好な関係をもとにスタート。23年の稼働を目指し、三菱重工を中心とし、仏アレバ(現フラマトム)などを含む日仏企業連合が黒海沿岸のシノプに原発4基を建設する計画だった。

政府関係者は「円満離婚だ」と強調するが、交渉は難航していた。

「これでは受け取れない」。今年3月ごろ、三菱重工が内々に伝えた事業費の見積もりは、トルコ政府にはねつけられた。膨らむ安全対策費で建設費が高騰したためだ。

協議の難航を受け、伊藤忠商事が3月末で離脱。三菱重工が7月末に提出した報告書では建設費が当初の2倍近くに膨らみ、総事業費は5兆円規模に達したもようだ。

トルコはロシアや中国からも原発技術の導入を進める。低価格で原発輸出を進める中ロと比較され「価格差が開きすぎた」(三菱重工幹部)。今夏以降のトルコの通貨リラ急落も響いた。

日本はこれまで原発技術で世界をリードしており、政府が技術輸出を後押ししてきた。原発事故で国内の新設計画が止まると、日本企業はさらに海外に活路を求めた。

だが、世界的に原発の建設コストが膨張。日本勢が受注競争で優勢だったベトナムやリトアニアの新設計画も相次ぎ白紙撤回や中断になった。現在、日本勢で唯一残るのは、日立が受注を目指す英国中部の案件のみだ。

原発を敬遠する動きは次世代の技術開発にも影を落とす。日本がフランスと進める次世代原子炉開発で、仏政府は20年以降、計画を凍結する方針を日本に伝えた。使用済み核燃料を減らす高速炉技術で、自前の高速炉計画を持たない日本にとって大きな打撃となる。

国内の原発新設が見通せないなか、事業の縮小・再編も本格化する。東芝とIHIは、11年に設立した原子力発電所向けの機器を生産する共同出資会社を清算する。東京電力ホールディングス(HD)と中部電力、日立製作所、東芝の4社は廃炉作業や保守管理などで提携協議入りを決め、事業の存続を目指す。

国内外で原発の新設受注を失う日本メーカーにとって、最大の課題は技能伝承による技術力の維持だ。日本電機工業会の資料によると、日本の原子力従事者はピークだった10年の約1万3700人から16年に約3000人減少。このうち技能職は4割減った。今後増える廃炉作業の技術者不足も懸念される。

「米国でも長い間原発の新設がなかったことで、ウエスチングハウスやGEの技術力は大きく低下した。日本も技術力低下は避けられない」。大手重工メーカー幹部はそう危惧する。

日本の原子力産業の裾野は広く、日本原子力産業協会の会員企業だけで400社を超える。関連業界は原子炉メーカーから金属部品、ゼネコンまで幅広い。厳しい経営環境のなかで原子力特有の技術を持つ企業の事業撤退も相次いでおり、サプライチェーンへの影響を不安視する声も強まっている。